行方不明の象を探して。その188。

何枚かのシャツをクリーニング屋に持っていき、何枚かのシャツを持ったまま、銀行に寄って現金を出し、靴屋に寄ってウィンドウショッピングをした。目覚まし時計の電池とUSBメモリを六個買った。必要ないのに。そして冷蔵庫の中の物を全部を全部ひっぱりだし…

長男坊さんへの返信。

長男坊 はじめまして、いつも読んでます! ほんとに最高の小説です。こういうものを評価するための語彙が私の中に存在していない(あるいはこの小説自体がそういうロゴスをあてがう評価から逃れようとしている?←的外れな感想だったらすみません(;∀;))ので…

行方不明の象を探して。その187。

扉は高くて広く、敷居も厚くて重く、縦に4畳ほど敷いてあった。縁のない畳は緑色で新鮮であった。部屋には何もなく、上に小さな机が置いてあるだけであった。ビヤホールの巨大な掛け時計の針はあと五分で三時を指そうとしていた。文字盤の下には二匹のライオ…

行方不明の象を探して。その186。

絶望というのは闇属性だし、ネガティヴな属性のものだろう。良いものだとは思わないが、心の闇から収穫できるものはたくさんある。変な話、そこから養分を得て表現活動に活かしたり何かを書いたり何かを表現できたりするのだろう。ただ観念的にはライト・ワ…

行方不明の象を探して。その185。

「一億年前には」と神奈川新聞に書いてあった。「ここに象がいた」まだ象は現れない。そういえば実家にいるんだった。野暮用で実家に帰ってきていた。でもアパートから遠くないので面倒じゃないのが救いなんだけど、問題はこれなんだよな。何かを書こうと思…

行方不明の象を探して。その184。

平坦な道が待っているわけではないし、かといってもいばらの道を歩んでいるという感覚もない。全ては自発的にやっていることで報酬はそれを掴むこと。それに尽きる。彼の父はよくこう言ったものだ。「お前には根気が無い」でもそれは間違いだ。根気が無いの…

行方不明の象を探して。その183。

じっと映画を観ていると、どうしても自然にその上に置いた鬼滅の刃のフィギュアに目がいってしまい、映画に集中できなくなっていた。でも思えば鬼滅の刃も人間とは何か?を問うような実存的要素がある作品であるし、神という題材はないものの、神なき世界の…

行方不明の象を探して。その182。

もういつの頃か忘れてしまったが、まだこの世で何かを成そうとしていた時に街を歩いていたらScelsiのMichiko HirayamaによるCanti del Capricornoが頭の中で鳴ったのである。その時何を考えていたかは忘れてしまったが、いずれにせよそれは何の実りももたら…

行方不明の象を探して。その181。

いつ買ったんだっけ、これは?こんな面倒な機構がついているものを好むわけがないので、学生時代に家族が持っていたものをそのまま使ったんだと思う。学生時代なんて言ってもほどんと授業には出ずに、今とほぼ同じような生活をしていたわけであるが。 視野が…

行方不明の象を探して。その180。

相変わらずの薄暗い部屋で僕が執筆のために腰を下ろしたとき、期待に満ちた空気に包まれたのもつかの間、ペンは手の中で震え、ためらいがちに、まるでその言葉が背負おうとしている重みを自覚しているかのように、影のベールに包まれた計画が目の前に立ちは…

行方不明の象を探して。その179。

「またマジックを披露してみて。飽き飽きしているが、聊かね。その後、また一緒に食事をしよう。ようやく準備ができたようだ」 「今日は何かに縛られているようでマジックなんてできなかったよ。見ての通りさ。ショーの時間は終わりだ。君は僕の横に座ってき…

行方不明の象を探して。その178。

主のいなくなった寝室はそのままにしてある。彼は彼女がどこか旅行にいったのだと思っているようだ。 「ホドロフスキーのタロットの本どうだったの?」 「カモワン主義者って感じだね。これ以外認めん!とかってなった時点でイデオロギー的というか、そもそ…

行方不明の象を探して。その177。

それを居酒屋でブーツにタイツを履いている女性を見つけて小さくなってブーツの中で匂いに囲まれながらオナニーしたらどうなるのか?どうなるもこうなるもオナニーだろう。あと消えたりね。透明人間になった場合、大体人が考えるのは二つだと思う。一つはお…

行方不明の象を探して。その176。

歩道も車道も閑散としている。日中、あんなにもたくさんの人間が右往左往していた同じ通りとは思えない。おまけに人間の数が多い。それにしても一番異様だったのは、同じ幻影たちのもとへと無理にでも連れ戻そうとするあの強迫観念的な執拗さで、数か月おき…

行方不明の象を探して。その175。

暗い庭に落ちている梯子から目をそらし視線は畑と低くよろめく壁、小川を渡ってさらに斜面を登り、すでに影になっている断崖と夏の空へと下りて行った。小さな陽のあたる畑とともに滑り落ち、暗い断崖に向かう山裾を苦労して登り、そこでは遠くから金槌の音…

行方不明の象を探して。その174。

リビングルーム横の和室に入り、押し入れを開けた。何もない。俺は、シャツとスラックスを脱ぎ、ジャージとトレーナーに着替えた。そして、脱いだ物を押し入れに吊す。二階に上がり、和室の電灯をつける。気がつくと、部屋中の明かりという明かりを全て灯し…

行方不明の象を探して。その173。

象はこれは分かっているのか。つまりは作品は作者の属性ではなくて、作者こそむしろ属性であって、作品という関数を決定する一つの変数以上のものではないということを。象が自分とか恐らく他の作家志望に対して「破滅するな」と警告しているのは、やりがち…

行方不明の象を探して。その172。

龍神様からのメッセージで、もちろんガチの方と師匠を介して教えてくださったのだけども、俺が「霊力開眼!」とかっつって色々やり過ぎてるんで「ちょっとボチボチ休めや。宇宙由来なのは分かるけど地球人として生まれて来てるんだから地球ペースでやったほ…

行方不明の象を探して。その171。

願わくはわれ永久に神より離れざらんことを。永遠の生命は、唯一のまことの神にいます汝と、汝のつかわしたまえるミューズとを知るにあり。われ母より離れおりぬ、われ母を避け、捨て、十字架につけぬ。願わくはわれ決して母より離れざらんことを。福音に示…

行方不明の象を探して。その170。

輝く口元のちんぽの影と海。体は後ろに倒れ、焦げたフィルムからは精液の匂い。脚が走る、黄色いシミ、黒い茂みの木々の中で少女が走る影がクローズアップされて、窓からちんぽをしゃぶる少女とハンドフィンガーファック。 カモメの手と漂白された動きの腕、…

行方不明の象を探して。その169。

「なぜあんなことを書いたのか」 「書かずにはいられなかった」 「書く必要性から余計なもの、無駄なものを取り除けば、それは不必要なものに変わってしまうのでしょう?」 「その必要性はすでに不必要なものだった」 こうして断片は未完成の分離として書か…

行方不明の象を探して。その168。

象は自分の存在を無視して部屋の中で作業をしているフリをしている。行ったり来たりして「あ、そうだ」って思い出したようなふりをして戻ったかと思うと考えてまた何かやっているフリをする。電化製品のプラグを点検したりPCでなんかの操作をしたりしている…

行方不明の象を探して。その167。

書かないために書くこと、そして書くことをやめる。その黄金は深夜以外は夢の儚い宝物、豪華にして無用な遺物にすぎない風を装うとしていたことを思い出す、金銀細工の海と星との複雑性に無限の偶然なるいくつもの結合が読み取れることを別にすれば、それは…

行方不明の象を探して。その166。

男は言った。 「今からはじまることは、これまで起きていたことだ。だからお前はどうすればいいのかどうかをあらかじめ知っていることになる。しかしそれは変えることもできる。お前の判断で全てを変えることができる。しかもお前がどこを変えるのか、それら…

行方不明の象を探して。その165。

彼は顔をあげてみたが何も見えなかった。しかし暗闇を見透かすことはできなかったが、その場でこの静かで規則正しい生活の反響に耳を傾けながら、この静寂に満ちた生き方の中には希望がある、彼が全てを放擲して求めた希望、彼の危険を正当化してくれる希望…

行方不明の象を探して。その164。

この本を書き始めてからとうとう一年近く経ってしまった。正常にそして時には幸せに暮らしていたその何か月かの間、俺は随分髪を黒く汚しては破いてしまった。「書き始める」という最初の文章だけが生きていた。ほかは執拗に書いては消し書いては消していた…

行方不明の象を探して。その163。

「あたしは悪魔の前でうんこするから」 「今は吐いていたじゃないか」 「あたしうんこするから」 彼女はうずくまるといま吐いたゲロの上にクソをした。勇敢な男はひざまずいたままだった。万里江は椅子に背を寄せかけた。汗だくで恍惚となっていた。思い描く…

行方不明の象を探して。その162。

今まで見れなかったのになんで。とりあえずダウンロードして保存した。この時、異常に眠くなり、幻覚を見た。頭がおかしくなりそうだ。また眠くなった。さっきまで寝ていたのに。なぜか郵便物が大量に届く。見るのも嫌になる。眠いんです。でも寝たらまた自…

行方不明の象を探して。その161。

「なんかコンビニとかさあ、あの立ってくれへん?」 「あのあれやわ、あの普通にコンビニ、コンビニで何か買って、オッケー、そうそう、コンビニで買って、なんかコンビニで買ってさ、な。なんかノリ良さそうやったから受けねらいで言っただけ。そう、そうい…

行方不明の象を探して。その160。

部屋の中。一見したところ何もかもあなたが指摘なさった通りかもしれない。この部屋の様子はすっかり変わってしまって、かつての役割に対応するようなものはもはや何一つない。もはや同じ部屋ではないし我々は同じ人間ではない。だからある意味ではあなたの…