続き。
俺 ある意味で認めますね。何しろこんな特殊な生活を親から許されているなんていうのがスタンダードだとは、あなたがしつこく言うように思えませんし、そういった意味で僕は恵まれているわけです。
男 それが情けないとは思わないのか?
俺 親のコネや経済的基盤なんかで社会に進出している上流階級のやつらなんて掃いて捨てるほどいます。
男 そんなやつらと一緒になることがみっともないと思わないのか?
俺 思いません。少なくとも僕は親の七光りで食べていこうと思っているわけではありませんし、親の七光りなんてのもありません。ただギリギリ選択可能なアドバンテージのある道を選んでいるだけです。
男 それが特権階級と言うやつだろう。
俺 特権階級と言うほど恵まれていませんよ。ただですね、結局、社会進出がですよ、経済基盤や親のコネで決まるとしたら、僕はそれに甘んずるというわけです。
男 どういうことだ?
俺 つまり僕にはギリギリながらも経済基盤に依存した特権を利用できるバックグラウンドがあるので、それを利用しているわけです。売れない芸能人になるよりかは、親の七光りを利用して売れる芸能人になるのを選んでいるようなものです。
男 それが情けないと言っているんだ。
俺 いや、でも芸能人にしても普通の人にしても、デビューしてからは彼ら次第でしょう?そこで能力が問われるんじゃないんですか?
男 そうかもしれない。ただお前はその経済基盤に依存しすぎている。
俺 もちろんです。
男 それが無ければお前はホームレス同然なんだぞ?
俺 もちろんです。だから特権を活かしているわけです。
男 情けないな。
俺 情けないのは社会の方でしょう。社会進出が家庭の経済基盤に依存してしまうなんておかしな話です。僕は自分のモラトリアム期間延長を留学という形で実行していますが、もちろんこれは経済基盤あってのものです。しかしこのモラトリアム期間が無ければまたすぐにスーパーのレジに逆戻りです。
男 何が言いたいんだ?
俺 つまり僕には家庭の経済基盤のおかげで可能だった選択肢があったから、それを選んでいるというだけです。ワーキングプアには無い特権的な選択を僕は選んでいる。ただそれだけのことです。
男 その特権的な選択というのがソファーでセンズリをすることなのか?
俺 そうかもしれませんね。まぁ僕は僕なりにやっているんで、親に後ろめたいことなんて何もありません。
男 呆れたもんだ。もう話す気にもなれないな。
俺 そうでしょうね。誰もが僕のことを妬むでしょうね。ニューヨークでモラトリアム生活だなんて。まぁもっとも僕にはもっと深い理由がありますけどね。でもその妬まれる理由は経済的な理由によるもので、それで言えば二世タレントだの二世政治かだの二世医者だのという人間達は僕よりもっと妬まれるべきなんじゃないですか?
男 あまり建設的な議論には思えんな。
俺 そうですか。分かりました。ただまぁ格差の固定というのはもっと僕みたいなプチブル留学生を増やすというのを例えば、あなたの観点から言えば「害」として捉えるのも悪くはないと思いますよ。
男 ・・・・。
俺 ニートなんてのも考えてみてくださいよ。ニートは社会が生み出しているとは言いきれませんが、彼らの「楽」な選択も、僕のような選択と対してあまり変わらないんです。
男 ニートはニートだろう。それ以上でもそれ以下でもない。お前は自分のことをニートに近いと自認しているのにも関わらず、それを肯定するのか?
俺 肯定というよりかはですね、家にいながら親に金をせびって小さいお金で小さい幸を得た方が、経済的に自立して例えばコンビニのレジに立ちながら一時間800円もらうより楽なんで、その小さい幸を選んでいるわけですよ。
男 しかしだ、後者は働いて自立もしているから社会的な責任は果たしているだろう。
俺 社会的な責任といっても微々たるお金をバイトで稼いでいるだけですよ?親からせびったお金で消費に力を入れた方が、そのほうがよっぽど社会的には良いんじゃないですか?
男 そんなことはない。
俺 ようはですね、あなたが言うような労働に対する美学みたいなのは彼らにはないんですよ。楽をすることしか考えていないというか、基本的に人間は楽をするために生きています。それはさっきの大学に行く動機と同じでしょう。働いた方がより多くのお金を得られて、なおかつ自分の欲しいものとかやりたいことがやれるというのなら、その消費欲やら快楽への意志によって働くことを動機づけられるでしょう。ただアルバイトではワーキングプアになるのがオチというのは目に見えています。会社に入ってもロクなことにならないというのを今の若者は知っています。そんな現実的な観点が労働の美学という幻覚を打ち消したわけです。結婚も同じです。結婚してもロクなことにならないというのが自明になったから、結婚なんていう損にしかならない重荷を背負うことを辞めているので結婚率が下がっているわけですね。まぁそれだけが原因じゃないんでしょうけど、まぁ幻想というか物語の典型的な終焉ですね。元々そんなものは無かったわけです。
男 君の物言いはだな、本当に反社会的なものばかりだ。君の言うことが仮に正しいとしよう。社会はどう回るんだ?君の言う理論が正しければ、人々はみんな家でグータラしながら結婚もしない・・・ということになり、社会は衰退する一方だ。
俺 はい。それが今の現状なんじゃないですか?
男 そのお前の突き放したような態度が気に入らないと言っているんだ。それはともかくだ、お前はそれでいいと考えるのか?
俺 そんなわけはありません。
男 ではこういったことについてはどう考えるんだ?
俺 ニートのようなぐうたらなやつでもキャリアアップなり働くということをしたほうが結果的に得で楽だというような、人間の快楽原則を利用したシステム的な社会作りをしていくしかないと思います。
男 どういうことだ?分かりやすく説明しろ。
俺 つまりですね、ニートってのは無収入ながらも限られたお金であまりお金のかからない趣味をやっていたほうが楽なのでそれを意識的に選んでいるわけです。働いても損をするだけです。「働いたら負けかなと思っている」というニートのイデオロギーに社会的なコンテキストが存在するかは分かりませんが、結果的にそのニートのイデオロギーはそこまでバカバカしいものでは無くなってしまっているのが現状です。ニートの言うことが一理あるということがマズいのです。
男 一理あるとは思えんが?
俺 死ぬほど働いて微々たるお金をもらってそのお金の大半が生活費と家賃に消えるなんていう無駄なことを誰もやりたがらないというわけです。生活に四苦八苦することが一人前とは言えませんよね。ニートと生活に四苦八苦しているアルバイターの共通点はスキルの無さや教養の無さでしょう。前者は親に甘え実家を拠り所にして暮らしている。後者は親に甘えることが出来ないので自立せざるを得なくなって、安アパートで暮らしながらバイト三昧の生活をしている。基本的にどちらも変わりません。むしろ金持ちの家の息子のニートのほうが貧乏暮らしをしている派遣社員より消費率は高いと思います。
男 やはりお前の言うことには同意しかねる。消費だけが人生ではないし、やはり人間は自立してナンボのもんだろう。お前はニートを正当化しようとしている。
俺 僕が正当化しているのではなく、正当化出来てしまうような現状があるからニートが増える一方なんです。
男 どういうことだ?
俺 つまりニートになったほうが得というような現状があるからです。だから僕はそれを変えていかないとどうにもならないと言っているんです。つまりニートでいるよりも働いた方がもっと良い生活が出来るというようなビジョンを持たせるような社会じゃないと、怠け者は人間の快楽原理に従ってニートになるわけです。
男 例えばだ、そういうニート達がある日、親から「出て行け」と言われたらどうなるんだ?
続く。
- 作者: 丸山真男
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