行方不明の象を探して。

というわけで九月末ぐらいから例のハマっていることにハマり続けてもはや生活がそれだけになったので、クラフトワークのカバーアルバムの制作も進まないっていうかほとんどやる気が無くなってしまったし、本業の小説のほうもご無沙汰過ぎて続きを書く気が起こらないっていうか、もしかしたらハマっていることが少し安定したらまた書き始めるのかもしれないけど、例のことにハマり過ぎててウォール伝が放置国家になるので、未完成の小説の連載で埋めていくことにしました。

 

大体あれなのかな、小説家になろう!とかって3000文字ぐらいだよね。だからまぁそんなペースでアップしていければいいかなと。なんか俺って切り替え早すぎだよね(笑)あれだけ完成させることにこだわっていたのに今は何のこだわりもなくなってる。

 

ってことでしばらくは小説の連載と合間になんか書くことがあったら書くって感じで。あと当然、半分以上がコラージュなので著作権云々とかパクリだとかそういうツッコミは無しで。

 

ってことで半年ぐらい書き続けていた小説が始まります。わーい。

 

行方不明の象を探して、或いは複数の認識可能な別作品の承認された置換 

 

耳蝉

 

アメリカンドッグを買いにコンビニに行くことにした。コンビニに入ると匂ってくる独特のあの匂いは、コンビニでバイトをしていたときのことを思い起こさせて、それが何十年以上前の出来事であっても、匂いから思い出される記憶というのは、普通に何気に思い出すよりも、より鮮明に思い出される気がする。プルースト効果というやつか。コンビニに行くたびにバイトのことを思い出しては「プルースト効果だ」と毎回思う。「そうだ、小説を書いてみよう」と思い立ったのはその瞬間のことだ。

 

小説家になろうというような野心があったわけではない。何はともあれ無心に小説というものが書きたかった。何を書こうと言う具体的なイメージもないまま「今なら何か自分なりに手ごたえのあるものが書けるんじゃないか」と感じたのだ。

 

コンビニのバイトで学んだことは、世の中の大抵の人間は他人から命令を受け、それに従うことに特に抵抗を感じていないということだ。むしろ人から命令されることに喜びさえ覚えている。無論文句は言うが、それは本気じゃない。ただ習慣的にぶつぶつとこぼしているだけだ。カウンターにこぼれた一円玉を拾う店員。そして文句を裏でぶつぶつとこぼす店員。退屈極まりない淀んだ世界だ。

 

コンビニの匂いとは、この退屈極まりない淀んだ世界を想起させるものだ。でも後に分かったことだが、それは別にコンビニに限ったことではなく、世界全般がそのようなものだということだった。だからコンビニに入るたびに退屈な世界について思いを馳せることになる。これが想像力なのではなく、単純な条件反射によって浮かび上がるから、なかなか厄介だ。

 

コンビニではコンドームオナニーをするときのためにコンドームを買うことがあった。よく行く時間帯によくシフトに入っている女の子がレジ打ちすることが多かったのだが、彼女は毎回ひどく恥ずかしそうに俯き、態度もそっけなかったが、うっすら興奮しているようにも見えた。

 

その顔を見たいがためにコンドームを買いに行くようになっていた。どんな音にも似ていないあの音を聴く度に二人の間にかすかなときめきが生まれ始める。そのうち買って帰ったレジ袋の中に手書きのメモがあるのを見つけるようになる。

 

「コンドーム嫌いです。生のほうが好きだから」

 

しかし、悲しいかな、こういう店は人の入れ替わりが激しく、期待して次に行ったときには彼女はもういなくなっていた。するとニット帽をかぶった小太りのおっさんがレジの地味な店員さんに包丁を突き付けていた。ふーん、コンビニ強盗か。

 

「早く金出せや!」

 

「ひっ……あ、あぅ……ぐすっ……ひぐっ」

 

あまりの恐怖に店員さんはグスグスと泣き出している。震えた手で必死にレジを操作しお金を取り出そうとしていた。その手には硬貨しかない。

 

「あ、あの……ひぐっ……こ、これで……」

 

「あぁ!全部だよ全部!てめぇ小銭だけ渡してどうするんだよ!こういうときは万札だろうが!常識的に考えてよぉ!」

 

「ひうっ!ご、ごめんなさいごめんなさい!……ぐすっ……っ!」

 

男の怒号を浴びせられた店員さんはつにボロボロと涙をこぼし始める。あーあ、可哀そうにな。ていうか早く俺の順番にならないかなぁ。さっきからおっさんの後ろに並んでるんだけど、これ、どうしたらいいんだろう?と、次の瞬間、クルリとオッサンが彼に振り返った。彼は反射的に挨拶した。

 

「ういっす」

 

「ういっす……って、はぁああああ!?」

 

オッサンの驚き声が店内に響き渡る。うるせー。耳痛えー。

 

「な、なんすか。声、でかいっすよ」

 

「でかいって、おま……はぁぁ!?どういうつもりだよお前!どこから来た!」

 

「トイレです。トイレに居たんすよ」

 

「トイレか……じゃなくてよ!お前、状況わかってんのか!?」

 

「わかってますよ。オッサンがコンビニ強盗してるんですよね?」

 

「わかってたのかよ!わかっててこの落ち着きっぷり!お前は特殊部隊の隊員か!?」

 

「いえ、生きがいを無くしているただの男です」

 

「闇深え!」

 

「闇ぶけぇ!よ。そりゃ。つまんねーな。相変わらず」

 

彼はオッサンの呼吸を読みわずかに抜きつけの一刀をひらめかせた。居合の神髄は抜刀の速さと間積りにある。オッサンの首筋から黒い棒のように血が噴出した。刀の切っ先がオッサンの首の血管を斬ったのだ。オッサンは棒立ちになったまま動きをとめていた。一瞬、己の首筋から吹き上げる血飛沫に気づかなかったのかもしれない。ヒュー、ヒュー、とコンビニ中に血の噴出する音だけが響いた。

 

一瞬、間をおいてオッサンは血を噴き上げる己の首筋を押さえた。指間から血が八方に散る。喉元から、フッ、フッと女の含み笑いするような音が聞こえた。軌道から漏れる息とと噴き出す血が絡まっているのだ。

 

首筋を押さえたまま仁王立ちしていたオッサンが突然朽ち木のようにコンビニに倒れた。彼は刀を八双にとって残心の構えをとったまま己の気勢を鎮める。呼吸が整うと刀の血振りをしオッサンのシャツで血糊を拭って納刀した。彼はオッサンの屍を川の土手まで引きずると、電柱の根元にもたせかけてコンビニに戻った。

 

ってことで第二話っつーか分けてないんだけど大体こんな感じで続くんで。

 

んじゃまた。