行方不明の象を探して。その46。

香港の友達が「日本ではなんで三国志があんなに人気があるのか?」と不思議がっていた。元々時代ものが好きでキャラものが好きな日本人だから中国の話なのにほとんど自分の国の話のように考えるのが三国志だろう。で、三国時代があって戦国時代がある。だから孔明とか関羽の子孫も日本にいることになる。


なぜ俺はこれを書くのか?と問いながら書き続けるのもあたくし小説だろう。これで新人賞を取ってやろう!とか本にしてやろう!という野望を失くせば失くすほど文章は自由になっていく。お金然り。稼ごう!とかって思うから稼げないのであって野望を良い意味で失くせばお金は勝手についてくる。


新人賞とか本とかYoutubeでバズるとかなんだとかは金の他の承認欲求が混ざっていて、その辺がごっちゃになっているとアウトプットもどうしようもないものになっていく。上手くやっている人はその辺のバランス感覚が絶妙なんだろう。意識的にやっているというよりかは体感的に分かっているか勝手にできてしまうんだろう。

 

でもあれだな、プルースト並の長い小説を書きたいという野望だけはあるな。戦争と平和の分量を超えてしまったからもう目指すものがなくなって一気にモチベーションが下がってしまった。だからヤツの小説以上にもなる長い小説を書けばいいのではと思った。全てはヤツのコンブレーの思い出から。あれはアカシックレコードにアクセスして書いている。

 

「金持ちなのか?」

 

「らしいね」

 

「そりゃ良かった」

 

「飼い主のオツベルさんのおかげさ」

 

「とにかく俺たちはツイてる」

 

「そうだな」

 

象はテニス・シューズの踵であらゆる現場の証拠をもみ消し、キーキー騒いでいる猿達を一匹残らず葬った。とても手慣れた様子だった。ストーンエイジに戻った感じだ。ストーンと落ちる感じとベースライン。揺らぐ煙。サウンドシステムから出ている煙を吸うとさらにラリッてくる。サウンドシステム自体が煙を吹いているのではなくてスモークを焚いているのだ。

 

「手際がいいね。でもさすがにグララアガァって言ったりはしないんだね」

 

「それはオツベルと象の話で、俺の場合はオツベルさんの象だからな」

 

「ねえ、俺たち二人でチーム組まないか?きっと何もかも上手くいくぜ」

 

「手始めに何をする?」

 

「ビールを飲もう」

 

僕たちは近くの自動販売機で缶ビールを半ダースばかり買って海まであるき、砂浜に寝転んでそれを全部飲んでしまうと海を眺めた。単位でダースを使うやつは例外なく嫌いだ。なんだダースって?12個だからダースですってオザケンが言わなかったら12個だということすら分からないだろう。

 

それにしてもなぁー素晴らしく良い天気だった。七階の部屋には二か所で折れ曲がる長い廊下が通じていて、昼間はその各支脈の最中の屋根までうがたれた窓から明かりを取っているので隅の方が真昼でもほとんど真っ暗になっており、夜はその三つの窓のかたわらの天井に取り付けられているこの建物の小型瞬間点滅装置に接続する光の弱い三個の電球に照らされる。

 

「俺のことは象って呼んでくれ」

 

と象が言った。エレクトロと検索してもエレクトロニックばっかり出てくる。あ、またエレクトロの話をしている。でも関心がそこにあるからしょうがないだろうが。クラシックエレクトロニックとか言っても大したクラシックじゃなかったりして、ストリーミングサービスのキュレーション力もコア過ぎるジャンルになるとイマイチになる。だったら俺が作ってやる!って思うだろう?でも面倒なんだよな。仮にプレイリストでもDJ Mixでもエレクトロのトラックでも俺が作ったとして、それが仮にバズったりしてもちょっと

 

「おお!」

 

って思うぐらいで終わってしまうので達成感ゼロなのが悲しい。というより音楽のキュレーションや布置のような作業においては作家性など重要視されない。重要なのは有用性だ。普段これを流していられるなとかダウンロードしていこう程度のもので

 

「選んだ人、凄い!」

 

とはならない。そういうのはもう昔の話だ。僕たちはビールの空き缶の中にC4を詰め込んで。全部海に向かって放り投げてしまうと、手元の起爆スイッチで全てを爆発させた。

 

「ファンタジー4って感じの風景だな」

 

と象は言った。凄まじい爆発を見た後、一種異様なばかりの生命力が僕の身体のなかにみなぎっていた。不思議な気分だった。やっぱり大麻ボカンだ。爆薬自体が大麻なのだろう。フリー・マリファナというとマリファナ解禁せよ!になってマリファナ・フリーになるとマリファナ吸っちゃいけません的な意味になる。どっちがいい?

 

「フリーマリファナがいい!」

 

象の即答の速さは立石に水。言葉遣いが違う気がする。まぁ走るというよりかはダウナーだからね。ラリってきた。ラリラリ。気持ちえーわ。

 

「俺もさ」

 

と象は言った。しかし実際に僕たちがしなければならなかったのは、公園に長年の因縁のあるキリンさんを襲撃することだった。

 

「ずっと昔に動物園を衝撃したことがあるんだ」

 

と象は僕に説明した。それよりモリモリはどうしているかな。元気にしてるよ。絶対。グレゴリオ聖歌に反応するわけだから元気じゃないわけがない。

 

「それほど大きな動物園じゃないし、名のある動物園でもない。どこにでもある平凡な動物園だった。商店街の真ん中にあって、匂いと音に対する付近住民のクレームが凄くて、これはもう俺がやるしかないなって思ったんだ」

 

「どうして君がやる必要性があったの?」

 

と僕は質問した。

 

「義信に駆られたからさ。全ての動物のロゴスを肉体言語で表現したかった。我々はテロリストじゃなくて表現者だった。あの本を書いたときに君は作家ならざる者というような位置にいたのではないか。また努力はどちらにそそがれていたのか、作家であることをやめるという方か、それとも作家でありたいと願う方なのか、と我々は考えるわけだ」

 

「我々?」

 

と僕は言った。

 

「我々って誰のこと?」

 

「俺にはその頃、相棒がいたんだ」

 

と象は説明した。

 

「もう10年前のことだけれどね、我々は二人ともひどい貧乏で、餌すら買うことさえできなかった。もちろん精神的な糧だっていつも不足していた。だからその当時我々は餌を手に入れるために実にいろんなひどいことをやったものさ。動物園襲撃もその一つで・・・」

 

「よくわからないな。さっき君は義信に駆られたって言ってたじゃないか。でも動機づけが強盗そのものだよね。どうして動物園を選んだの?なぜ働かなかったの?少しサーカスとかでアルバイトをすれば餌を手に入れるくらいことはできたはずでしょ?どう考えてもその方が簡単だし、そもそも君は金持ちじゃないのか?オツベルさんは何て言ってたんだ?」

 

「おいおい。質問の数が多すぎるぜベイベー。相棒のキリンは飢えていたんだよ。俺は飢えているフリをしていた。よくいるだろう?美大生とかで苦学生であることが青春の証のように考えているやつが。キリンがあまりにも飢えているんで、俺は相棒として自分が実は金持ちで、オツベルさんというパトロンがいるということを隠していたんだ」

 

「キリンと仲が悪くなったきっかけは?」

 

「もう大体わかるだろう。ある時、俺が金持ちで実際は飢えていないということがバレたからさ。でも飢えたフリをしても、俺はキリンの作戦い乗ったし、当時から危険物の知識はあったから、主に兵器は俺が作ったり調達してたんだ」

 

「キリンも君のような軍事関係の知識とか技術を持っていたのか?」

 

「いいや。やつは根っこからのキリンさ。仮にやつが武器のエクスパートだったとしても、実践ではやつの首しか使わないだろうし、やつは首だけで修羅場を潜り抜けてきたことを誇りにしていたからな」

 

「じゃあ爆弾はお前が作って仕掛けたり爆発させたのか?」

 

「いや、俺の鼻はりんごとお金以外を掴もうと思わないから、一切爆弾の類は使わなかった」

 

「それで襲撃は成功したのか?」

 

「結局、実際に動物園に行って見ると居心地が良くなってしまって、たまたま訪れた日に延長がいたんで、雑談をしているうちに仲が良くなって、うちに入らないか?ということになって、そこからその動物園に入ることになったんだけど、オツベルさんがそれに猛反対して、キリンに後から一緒に動物園には入れないということを説明したんだけど、一生食うに困らない生活ができるというのに断るなんておかしいだろ!っていう凄い剣幕で怒鳴られてさ、で、色々と言い訳をしたんだけど、結果的に俺がオツベルさんに飼われている象だということがバレて、オツベルさんがカレーを作るときに使うリンゴを俺が鼻で渡していることもバレてしまってね、キリンはそれでもうブチ切れさ。喧嘩になったら殺し合いのレベルになるというのをお互いわきまえていたから、キリンはそこから全く俺のことを無視するようになったんだよ。裏切者として認識されているほうがまだマシだったかもしれない。キリンは全く俺の存在を忘れたように俺のことを無視し続けた。それはもう、実にはっきりしていたんだ」

 

「でも今はキリンと仲が悪いってことは、少なくともキリンは君のことを意識しているということになるよね?」

 

と僕は言った。それは一種の侮辱であり、だから想像を絶するものであった。そのかさは一人の人間にまとまっていて、その人間が次の爆発に耐えることができるのだろうか。思い出は、あの人……名前は? この瞬間? 今か? この瞬間?