行方不明の象を探して。その108。

で、その「なるほど!」と思った理由は、獏はドリーム・イーターであることは確かだが、それは人が夢見ていることを「お前にはそんなことできないよ」「お前なんか勘違いしてない?」「大人になれよ」なんて言いながら親の仇のように全力でドリームをクラッシュしてくるドリーム・クラッシャーなのではなくて、悪夢を獏にあげるから、その代わり二度とその夢を見ずに済むという悪夢を食べてくれるいいヤツなんだということだった。

 

作家になる夢というのは悪夢に属するからドリーム・イーター・キャンペーンを独自展開しているのか。きっかけはやっぱりベケット三部作を誕生日でもないのに誕生日プレゼントとして渡したことがきっかけなのだろうか?それで?ヤバい!文学は死んでるし、今後は何の発展も見込めない。

 

なのにマスコミや映画や漫画なんかが文学を美化してしまっているおかげで、自分も作家になりたい!なんて思うやつが大いに違いない。なれるはずがないし食えるわけがないのに「作家になるためには」みたいな本とかセミナーで儲ける悪質な人間が出てくるに違いない。だからそんな悪徳が栄える前に俺がなんとかしないと!みたいな感じでキャンペーンを始めたのだろう。

 

ということはあの飛んでいる象を見て「お節介なやつだなー。ただなんとなく作家になってみたいって言っただけなのになー」とかって思ってるやつも中にはいるということだろう。でもどのくらいの家に侵入して鼻で茶を沸かしたのだろうか?キャンペーンは今でも続いてて不眠不休で象はキャンペーンを展開中なのかもしれない。

 

そう思うと象のことを悪く思えなくなってきてしまった。あれは象なりの警告なんだ。でもどうしよう。実家の両親には作家になるって言っちゃったし・・・って言っても言ったのは両親ぐらいで友達がいないことに気がついた特に「どうしよう」とも思わなくなった。もう象は見えなくなっていた。意外に速い速度で空も展開中なのかもしれない。その速度に象の危機感の表れを感じてしまうのは、ちょっと考えすぎかもね。

 

で、これが全部混ざっているスタッフ。うん、車に戻ったらコカインも渡すよ。今渡してもいいし、トイレでやってもいい。いや、遠慮しとくよ。ドラッグはあの女に渡そう。バイザウェイ、家に帰ったらどうする? 

 

したらば、眠れるように煙草を渡すし、そしたら奇跡が起きるかもね、自分一人で一日乗り切れると思う?祈りなしでってこと?面白いね、祈ってる?ムード・ディスカウント? どういう意味だ? っつぁっぷ。

 

実際に何かをしなければならないと思ったからね。え?つまり、好きってこと?まあ、そうかもね、それが重要だと思ったんだ、え?どういう意味だ?恥をかかないといけないんでしょ?

 

最も深刻で深遠な問題や疑問や課題は、ユーモアの形でしか論じられない。ユーモアには苦痛からの逃避を促す力がある。象の横断幕がそういった類のユーモアだったら、凄く気が効いているものだろう。ドリームをイートすることなくデストロイすることでもなく、ユーモアに変えて悪夢を解消しようとする。

 

象に反発しているようで、実はそうではないということをよく自覚しているつもりだ。「籠の中の鳥の歌」のようなもので。それは鳥かごを愛するようになった鳥の歌だ。鳥かごが嫌いだと歌っていても、本当は鳥かごの中が好きなのだ。それは目覚ましにも麻薬にもなる。鳥かごに中にいれば自動的に餌を食べることができるし、ようは衣食住に困ることがない。

 

するとヘリコプターの音が聞こえてきた。麻布十番から青山一丁目へと抜ける六本木トンネルの真上に位置する在日米軍のヘリポートへと向かうのだろう。軍事関係の知り合いがいて機密を喋るのが趣味な彼から様々なプラネットプランが駄々洩れなんだなこれが。プレイボーイ大作戦の始まりってわけだ。

 

でもいつもはもう一時間ほど遠くに通過していくのではないかな。部屋でタイプライターに向かい、全く進まない原稿を目の前にしながら、今夜もまた書けないまま終わって、グダグダして酒飲んで終わるんだろうなとかって頭では考えている、そうした時間帯に。平日なのに変則的なのだろうか。

 

いや、定期便ばかりとは限らない。アマゾンと同じだろう。そういうところは。見上げるとパールグレーに塗装されたヘリコプターは少し離れた上空でマシンガンをぶっ放していた。カリカリに乾いた空間で鳴らした爆竹のような音がした。美味しい音だわこれは。耳で聞く食べ物というかね。重火器の音はいいね。やっぱり。

 

予期せぬ荒波や乱気流に遭遇した船船や飛行機の復原力を指すスタビリティ。その形容詞がステイブル。賃貸物件を全国にわたって検索できるのがエイブル。語源はスティル・スタンド・エイブルだと以前にどこかで読んだものを思い出す。これでヘリコプターとマシンガンと不動産が繋がった。

 

繋がりについて言えばキリがない。数え切れないほどの小さな花、オイルのレタス添え、あくまでオイルが主体、やっすいオリーブオイルと酢とニンニク、ブラックコーヒー、ニコチン入りタバコ1本、マリファナ入りタバコのほんの一部、チョコレート一枚、キャンディー、コカイン少々、アルコールとフルーツジュース、塩辛いフライドポテト、もういいや、いつか自殺しそうなやつが書くような文章だよね。それがだな、死なないんだな。これが。生に執着しているから書くんだよ。

 

他に何を言うべきか?ヘリコプターは仕事中の自分の名前を作っていて、仮に彼女が同意しない場合、僕にショックを与え続けるだろう。宝くじによって彼女に許され、現在に至る。カタカタカタってタイピングする音がしてビジョンが現れては消えてっていうか消えずに残っていて、それでまた寝るわけだ。起きる。それの繰り返し。気が付いたら半年経っていました。

 

まぁ真理とはこういうところに隠れているものなのだね。長いものに巻かれることなく、じっとその場に立っていられる強固な心意気。どうせみんな何をやっても墓石。破壊しつくすヘリコプターのマシンガンに賛同する心意気。朝から瓦版を読み、そしてすぐに寝る夜型生活。永遠の野戦と夜戦。インク切れしたペンを片手に遊撃を続けるレジスタンス。

 

どうやらぶっ放しが終わって着陸許可が出たのだろう。ヘリは降下し始め、ぴょんぴょんぴょん。神社の石段に向かって突撃して爆発した。インポッシブル!と叫んだがミッション完了な感じがした。頭の中でPropellerheadsの「Spybreak」が流れ始めた。あの名前忘れた俗流の評論家か何かが大阪を歩いていたときにモーツァルトが頭の中で流れた・・・みたいなのと同じで、全くそれに意味などない。ただヘリが神社に突っ込んで爆発しただけなんだから。

 

デジタル再生成で復元された神社の立て札の注意書きを見やりながらいつものルートを辿る。ここまでこうやって歩いててさ、無駄にビヤホールで溜めてしまったカロリーが上手く燃焼してればいいんだけどなー。ふと自分が小学校低学年だったころの光景が記憶の円盤の中から手繰り寄せられてきた。