2024-01-01から1年間の記事一覧
すべてが白い。光に満ちている。その光が次第に弱まり、同時に視界の中心へ収縮していき、夜空の中の月になる。下弦の月。白い残像の筋を引きながら月は上昇していく。代わりに闇に溶けかけた輪郭を持つ地上の光景が僕の目に入ってくる。 二階のバルコニーで…
「なんでもないのに湧き起こって、君の黒煙は街路を黒々と吹き飛ばしていくわけだよね。それも占領するような突風ではなくて、薄絹のつむじ風みたいなステルスっぷりでね。そしてちりぢりに乱れはなった泡沫となる激情をもってして、その熱狂の旋風を額のあ…
「ねぇ、君、僕って空っぽだと思わないかい?」 彼はニヒルな笑みを浮かべながら言う。間違いなく空っぽだろう。分かり切ったことをなぜ質問するのだろう? 「その通り。本当に空っぽだと思うよ」 僕はそう答えた。 「ほんとに何もないんだよ」 と彼はかすれ…
彼は言った。 「俺が誰なのか、君は本当にそれを知りたい?」 「そのために僕はここにきてるんだ」 でも僕の声は暗闇の中で何かしらの居心地の悪い響き方をした。 「なんだかインディ・ジョーンズの映画みたいになってきたね」 返事をするかわりに僕は咳払い…
僕普段から過ぎたことへの無益な後悔や焼き付くような良心の呵責を感じることがあるが、彼には一切それがない。そこに僕はおぼろげながら虐げられる快感のようなものを感じることがある。芝居として「自分はダメ人間です」などという言葉を吐いて行うSMとは…
「ニッポンの中年はいったいどうなってるんだろう。君も終電間近の電車のなかで、見かけたことがあるよね。汗とアルコールのにおいを振りまいて、なにか意味不明なことを怒鳴ったり、だれかれ見境なく喧嘩をふっかける男たち。それもたいていは若いやつらじ…
「そうかもしれないということは、象が消えることは少しは予測できたっていうことになりませんか?」 と彼女は質問した。 「予測なんてできっこないよ」 と笑って言った。 「ある日、突然象が消えちゃうなんて、そんな前例もないし必然性もない。理にもかな…
試しに彼女に 「ドラッグってすぐ調達できる?」 ってストレートに聞いてみたら 「ストレート・ノー・チェイサーですね」 と言って事務所に電話してドラッグのいっぱい入ったアタッシュケースを開けて、どれでもお好きなものをどうぞと言わんばかりの顔をし…
「血まみれのアンヌ嬢、若しくは我らがニンフォマニアが後光に包まれる」 「あなたが思っているほど血まみれじゃないんですよ。さっきからロウソクの蝋で傷口をふさいでいるし、あなたがぼーっとしている間にも瓶の破片は自分で抜いていたのです。ウィスキー…
僕はまた首をグルングルン回しながらウィスキーの残りを飲み干した。 「さぁじゃあ破片抜きと掃除の続きをやりますか」 酒の力を借りて、目の前の惨状に対処しようとした。しかし彼女は手のひらをこめかみにあてながらこう言った。 「もういいんです。作業は…
「ありましたネーありましたゾ」 彼女が得意げに花束でも出すようにハンドルを取り出した。それはLという字の右下に短いIを継ぎ足したような鉄の棒で、片方に丸い木製の握りがついていて、もう片方には工具の六角レンチのような穴が開いていた。この凹んだ部…
「僕らはさ、ただこうやって存在することが大事な意味を持ってるんだよ。僕らが存在し、生きること自体が一つの目的なんだよ」 重苦しい沈黙を破るために必死だった。 「そうですね」 と彼女は小声で言った。 「今の僕らには、それが凄く大事なことなんだよ…
「あのなんつーかその、悪いけどさ、俺と一緒に来てくれないかな。何がどうなってんだかさっぱり分からないから場所移さない?」 彼女は凄まじい反応速度で本をショルダーバッグに入れ、コートを着る。テーブルの上の勘定書を取ろうとするが、その前に手を伸…
一人客が多く見受けられるようになっている。ノート・パソコンを使って書きものをしている客もいる。スマホでメールをやりとりしているものもいる。彼女と同じように読書に耽っているものもいる。何もせずただじっと窓の戸を眺め考え事をしているものもいる…
自己陶酔している人間に彼女のような雰囲気は出せない。自己陶酔していればダラダラしているようでもあくまでそれは「フリ」であるし、言葉ではニヒリズムを語っていても自己陶酔している人間のニヒリズムは言葉のところどころに自己愛が見え隠れする。自分…
モリモリは一瞬の感覚の記憶を遅らせる作用があるようで、上手く使えるようになれば独自の物が創り出せるような気がしなくもないが、そもそも何もないところから何かが出てくることはないので、例えば空っぽの俺から面白いものが出てくるということはないし…
「そうなんだ。でもなんで?」 「聞きたい?」 「いや」 そう答えた。 「そう言うと思ったわ」 彼女はクスクス笑ってブラディ・マリーの残りを飲み干した。その動作は内省的なピアニストが歳月をかけて磨き上げた短めのカデンツァを思わせる、自動的な優雅さ…
彼女には心の奥までさらけ出せる。特に自分だと心の底までさらけ出すことができる。というよりも彼女に抉られる感じがする。一度たりとも納得したことがない彼女に対する受動性、この従順さに戦慄する。ちょうどある種の動物が獲物に目つぶしをくらわせるた…
当時のボブ・サップ人気は凄かったので、当時の自分はボブ・サップの試合を欠かさず見ていたのだが、突進して倒せばいいのに、でも突進してくるだけのやつなんだなということが周知になってしまった後は、ボブ・サップは「攻略」されてしまった。そこで攻略…
「まぁなんていうか何も言い返せないわ。正論過ぎて」 「そんな洒落た格好してさ、一人でバーのカウンターに座ってカクテルの身ながら寡黙に読書に耽ってるなんてダサいよ。サルトルごっこっていうか文豪ごっこっていうかさ、ワナビーだよね。ロッカーの恰好…
芸術が失敗するときってのは大体表現者の表現の度合いが高すぎて主張がうるさ過ぎることだと思うけど、表現ですらないのにも関わらず「くだらなさ」を表現できているスタバのアルコール販売は究極の芸術だろう。誰が帰りにいっぱいひっかけてから帰るという…
だから僕は常にメンタルのチェックを欠かさない。でもここでパラドックスが起きる。もし僕が狂っていたら「狂っていない」と診断する僕は狂っているのだから、第三者の目がどこにもないということが問題になる。身体的な問題なら客観的に分かりやすい。首が…
しかしメテオライトのブレスレットを身につけた彼はもう無敵である。さっきまでの鬱が嘘のように回復し、創作意欲があふれ出してきた。そしてまた言葉との戯れを始めた。彼はまた前人未到の言葉の世界に足を踏み入れた。しかしメテオライトのブレスレットを…
部活の時、とある先輩からボールを持ってその冴えない先輩に渡すように言われたので、男は先輩にボールを持って行ったら冴えない先輩は何かの作業中で男の指示が聞こえないフリを永遠と続けた。男も粘って「先輩から持ってきてと言われたボールです」と言い…
人通りがないわけではないのだが、誰もこの中で若いサラリーマン風の男が死んでいるとは思ってもいないだろう。渋谷の監視カメラの位置はすべて把握しているので、トレスされる心配もない。銃器とCQBの免許皆伝の際にオツベルさんから頂いた懐刀にも血はつい…
「この曲、何なの?」 と言われたときにそう答えるには答えるだろうけど、一回もそう聞かれたことはない。あと彼女は未成年なのでウィスキーの口移しなんてのも全くのナンセンスで彼女はそれを口受け取った後ベッドに吐き出した。 「なにこれ。変な味。まっ…
優美は熱く息を弾ませじっとしていられないように、次第にクネクネと見悶え始めていた。僕は十分に舐めてからもう片方の乳首も優しく舐めた。優美が喘ぎ、くすぐったそうにビクリと肌を震わせては、かわいらしく甘ったるい匂いを揺らめかせた。 左右の乳首を…
いやーあっという間だったなぁー。ネタバレになるからやってない人アレなんだけど、まぁ思い出補正もあるんだろうな。普通に楽しかったわ。ただ言うてもサガだから難易度高いだろうと思ってカジュアルでやってたんだけどやっぱ七英雄で詰みかけたわ。あとな…
後の印象になるんだけど最初のSNSをディスってたイエス様は俺が思ってたイエス様をちょっとコミカルにした感じだったけど、残酷なほうのイエス様は全然イメージと違う感じで、あれはイエス様じゃなかったんだと思う。というかまぁ全部幻覚だろうな。でもそれ…
そしてその海からモンスターが現れたと同時に海が森に変わり、自分の認識は混乱を極めていると同時に、その意味不明の変化と同化してしまいと思っていた。そして視界がフェードアウトしていった。森と化した公園の砂場に太陽が昇り、お天道様の顔が現れた。…