2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

行方不明の象を探して。その140。

「え?あ、うん、その、まぁ、きっと発狂するよ」 「どうしてまた」 「正直言うと具合が悪いんだ」 小説を書くとき、登場人物の職業をなんにするか、いろいろと頭を悩ませる。やっと職業を決めたら、今度は資料となるような本を読まねばならない。ところが、…

行方不明の象を探して。その139。

シャワーを出て仕事着を身につけるとスマホが鳴った。 「はい」 「あたし」 「ああ、きみか。今ちょっと忙しいんだけど」 「じゃあそっちに行っていい」 かごめかごめ。かごの中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に鶴と亀とすべった。うしろのしょうめんだあ…

行方不明の象を探して。その138。

知覚を遮断したら身体が浮き始めるのはエーテル体の証明だ。全ては脳が作り出しているかって?そんなに脳は万能じゃないさ。どうやって浮かんでいる自分の目線を知覚する?というか記憶からそれを取り出してきて、あたかも浮いたかのように知覚する?いや、…

行方不明の象を探して。その137。

確信めいたものがあるわけではないが、定式化された物理現象の中で発揮する人間のポテンシャルというのは限られている。そもそも物理空間や物理現象の整合性とマッチしたのが脳なわけで、ただ脳はそれ以外の情報も整合性を保ったまま、意味の崩壊という危険…

行方不明の象を探して。その136。

観測の過程として現象は現れるので、現実に見えるものや認識的に納得がいくようなもの以外のものの振る舞いが様々な現象を規定しているといっても過言ではない。というかそう考える方が自然なのではないか?なぜ人は「見えるもの」や「信じることに値するも…

行方不明の象を探して。その135。

30分かけて彼女のアパートまで歩いた。 ちくちくする灌木の枝に頭をもたせかけたまま、息を吸い込んでみる。夜の植物の匂いがする。彼女の声を聞いた途端、僕は暗い淵に引きずり込まれそうな虚脱感を覚えた。さっきまで見ていた夢の情景が甦る。海辺で不意の…

行方不明の象を探して。その134。

彼女は黙っていた。そう彼女が僕に話すとき彼女は僕と同じようにして僕に話すのではない。彼女が僕に訴える時、いかなる場所からも彼女に離さない何かに彼女は答えており、その際にはある区切りによって、つまり僕と彼女の二重性も一体性も形成しないような…

行方不明の象を探して。その133。

僕たちの目から見て実質があると思われるところではすべてが付帯的状態に過ぎないのであり、僕らがもっとも堅固だと思っている者はもっとも空虚なものだし空虚なものはすべて空虚だ。 「うーん、この橋をどう稼働させればいいのか・・・」 「困ったもんです…

行方不明の象を探して。その132。

「あんたは本当にそう信じてる?」 「ああ」 象はしばらく黙り込んでビール・グラスをじっと眺めていた。 「嘘だと言ってくれないか」 象は真剣にそういった。 象は車で象を家まで送り届けてから一人でバーに立ち寄った。 「話せたかい?」 「話せたよ」 「…

行方不明の象を探して。その131。

「女の子はどうしたんだ?」 思い切ってそう訊ねてみた。象は手の甲で口についた泡を拭い考え込むように天井を眺めた。 「はっきり言ってね、そのことについちゃ君には何も言わないつもりだったんだ。バカバカしいことだからね」 「でも一度は相談しようとし…

行方不明の象を探して。その130。

チャネリングは悪くない。いよいよ本もつまらないとか3次元情報に飽きてきたらもう別次元だ。それを5次元とかって言ったりするけどそれが実際に5次元かどうかは分からない。それは数学的に5次元なのか別次元のことを比喩的に5次元と言っているのか、もしくは…

行方不明の象を探して。その129。

そう。僕は思い出すのだが言葉を語ることとはそもそもあらゆるビジョンと決別することであり、もはや明るさともそれを唯一の尺度としてかかわるのをやめることである。そしてまた言葉の中には日の光の所業ではないような現前、それでも明らかに表示するよう…

行方不明の象を探して。その128。

ユングによると、一般的に偶然の一致と呼ばれているものの中で意味のあるもの、言い換えれば、意味のある偶然、必然的な偶然、そういったものを引き起こすのがシンクロニシティなのだという。 象は例をいろいろと話し出した。小説に書いた話とまったく同じ事…