2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

行方不明の象を探して。その169。

「なぜあんなことを書いたのか」 「書かずにはいられなかった」 「書く必要性から余計なもの、無駄なものを取り除けば、それは不必要なものに変わってしまうのでしょう?」 「その必要性はすでに不必要なものだった」 こうして断片は未完成の分離として書か…

行方不明の象を探して。その168。

象は自分の存在を無視して部屋の中で作業をしているフリをしている。行ったり来たりして「あ、そうだ」って思い出したようなふりをして戻ったかと思うと考えてまた何かやっているフリをする。電化製品のプラグを点検したりPCでなんかの操作をしたりしている…

行方不明の象を探して。その167。

書かないために書くこと、そして書くことをやめる。その黄金は深夜以外は夢の儚い宝物、豪華にして無用な遺物にすぎない風を装うとしていたことを思い出す、金銀細工の海と星との複雑性に無限の偶然なるいくつもの結合が読み取れることを別にすれば、それは…

行方不明の象を探して。その166。

男は言った。 「今からはじまることは、これまで起きていたことだ。だからお前はどうすればいいのかどうかをあらかじめ知っていることになる。しかしそれは変えることもできる。お前の判断で全てを変えることができる。しかもお前がどこを変えるのか、それら…

行方不明の象を探して。その165。

彼は顔をあげてみたが何も見えなかった。しかし暗闇を見透かすことはできなかったが、その場でこの静かで規則正しい生活の反響に耳を傾けながら、この静寂に満ちた生き方の中には希望がある、彼が全てを放擲して求めた希望、彼の危険を正当化してくれる希望…

行方不明の象を探して。その164。

この本を書き始めてからとうとう一年近く経ってしまった。正常にそして時には幸せに暮らしていたその何か月かの間、俺は随分髪を黒く汚しては破いてしまった。「書き始める」という最初の文章だけが生きていた。ほかは執拗に書いては消し書いては消していた…

行方不明の象を探して。その163。

「あたしは悪魔の前でうんこするから」 「今は吐いていたじゃないか」 「あたしうんこするから」 彼女はうずくまるといま吐いたゲロの上にクソをした。勇敢な男はひざまずいたままだった。万里江は椅子に背を寄せかけた。汗だくで恍惚となっていた。思い描く…

行方不明の象を探して。その162。

今まで見れなかったのになんで。とりあえずダウンロードして保存した。この時、異常に眠くなり、幻覚を見た。頭がおかしくなりそうだ。また眠くなった。さっきまで寝ていたのに。なぜか郵便物が大量に届く。見るのも嫌になる。眠いんです。でも寝たらまた自…

行方不明の象を探して。その161。

「なんかコンビニとかさあ、あの立ってくれへん?」 「あのあれやわ、あの普通にコンビニ、コンビニで何か買って、オッケー、そうそう、コンビニで買って、なんかコンビニで買ってさ、な。なんかノリ良さそうやったから受けねらいで言っただけ。そう、そうい…

行方不明の象を探して。その160。

部屋の中。一見したところ何もかもあなたが指摘なさった通りかもしれない。この部屋の様子はすっかり変わってしまって、かつての役割に対応するようなものはもはや何一つない。もはや同じ部屋ではないし我々は同じ人間ではない。だからある意味ではあなたの…

行方不明の象を探して。その159。

広大な畳の部屋。そこに和服の人が座っている。しかし彼らの顔には口があるだけ。それぞれが読経のように勝手な言葉を呟いている。無表情に彼らに向かい合って立つ彼。それらはSNS、ネットといったものの象徴。口だけの人の間を歩く彼。すれ違いざまに聞こえ…

行方不明の象を探して。その158。

神が欲し、人が夢見、作品が生まれる。語から切り離されたものがそこで自らを聖別する。解明されない光、光の破裂、聞き取ることのできない言語の砕け散る音の残響。この果てしなさを受け取ることは責任を受け取ることを意味する。意味の不在において謎を形…

行方不明の象を探して。その157。

夜の街、人が無言で行き交うにも関わらず無数の喋り声が交錯している。ビルとビルの間には無数の電線。その中から漏れ聞こえる声。グライムが無機質な低周波で暗い穴蔵の中を揺さぶる。ひしめく人の顔すらも判然としないほど暗い。夜行性の生き物たち。着飾…

行方不明の象を探して。その156。

「したいことをすればいいのだ」 彼は肩をすくめながら独り言を言った。 「こんなに色々な力がもつれていては人のすることなんてまるで問題にならないからな」 彼はまるであきらめを知った人間のように、いやほとんど強い刺激を常に避けようとしている病人で…