行方不明の象を探して。その199。

誰にも分からないか?と言われれば「はい、勿論です」と答える。それは自分を助ける表現として。ヤァヤァヤァとの信頼は相互的なものであると思うこともあったが、今はもちょろん、この空間で僕が話せる方法を探している最中だょ。相互的でなくてもかまわないゅう。

  

その信頼は、あるものは12歳でピークに達する。そしてあとはあまりにぱっとしない人生を送ることになる。あるものは死ぬまで上り続ける。あるものはピークで死ぬ。多くの支持にゃ作曲家は疾風のように生きて、あまりにも急激に上りつめたが故に30に達することなく死んだ。

 

パプロ・ピカソは80を過ぎても力強い絵を描き続け、そのまま安らかに死んだ。こればかりは終わってみなくては分からないのだ。小さなテロリストはどうなんだろう?と考えてみた。その食欲といいナイフの鋭さといい、現在のあの佇まいも小さいから圧倒される何かがあるのであって、大の大人がやっていたら滑稽なだけだ。

 

それを考えながら目を閉じていた。目を開けると彼女がテーブルの向かいからじっと見ていた。

 

「大丈夫?」

 

と彼女は言った。

 

氷の微笑を浮かべながら首を大げさに振った。「パキン」という音がした。

 

「うん。大丈夫」

 

「嫌なこと考えてたのね?」

 

「そうかもしれない」

 

「そういうことよく考える?」

 

「いや、人生で初めてだと思うし、今後、今考えていたことについて考えるきっかけがあるとは思えない」

 

彼女はため息をついてしばらく紙ナプキンをテーブルの上で折って遊んでいた。小さなテロリストはナイフを両手に持ったまま店内を歩いている。父親は

 

「いよっ!いいぞ!がんばれ!」

 

と応援している。

 

「すごく寂しくなることある?つまり、夜中なんかにそういうことをふと考えて?」

 

「いや、さっきも言ったけど、これについて考えることは今後は無いよ。一切ね」

 

「ねえ、どうして今ここで急にそんなこと考えたの?」

 

「多分、君が美しすぎるからだ」

 

と答えた。

 

「あなたがいつもぼろ糞に言う、例の長蛇の列を作る作家の作品に出てくるセリフみたいね。ばっかみたい」

 

彼女は空虚な目つきでしばらく顔を見ていた。それから激しく首を振った。何も言わなかった。凄くパフォーマティヴだったので、例のあの女はこういうのを好むだろうなと思った。

 

夕食の勘定は彼女が払ってくれた。

 

「隣の太った一家のパパがお金くれらぁからいいのよぉ」

 

と彼女は言った。目を閉じて小さなテロリストのピークについて考えているときに密かにお金を受け取っていたのかもしれない。彼女は勘定書を持ってレジにイキ、ポケットから一万円札をまとめて5、6枚ひっぱりだして、そのうちの一枚で勘定を払い、釣銭をロクに数えずもせずまた革ジャンパーのポケットに突っ込んだ。

 

「太ったパパのおかげでただ飯にありつけたわね。フリー・ランチは存在しないって言葉があるけど、大きく覆ったわね」

 

と彼女は言った。

 

「あの子さ、ナイフ両手で持って店内歩きまわってた子いるだろう?なんで誰も注意しないんだろう?って思わなかった?お父さんに至ってはなぜか応援してるし」

 

「でもそのお父さんのおかげでただ飯が食べられたんだから結果オーライじゃない」

 

「6万ぐらいポケットに入ってるみたいだったけど、全部それってあのお父さんからもらったお金なの?」

 

「だったらどうなのよ」

 

「いや、どうもしないけどさ。でも後学のために一応言うなら、そういうのはクラシックなデートのマナーに反してる」

 

「そうかしら?」

 

「デートでご飯を食べた後で、女の子は自分で勘定書をつかんでレジで金を払ったりしちゃいけない。男にまず払わせて、後で返す。それが世間のマナーなんだ。男してのプライドを傷つける。僕はもちろん傷つかない。僕はどのような観点から見てもマッチョな人間じゃないから。でも僕はいいけど、気にする男も世間には結構たくさんいる。世界はまだまだマッチョなんだ」

 

「あなた本気でそんなこと思ってる?今はフェミニストが武装している時代よ。そんなことを言ったらフェミニストの兵士に銃殺されるわよ」

 

と彼女は言った。

 

「そもそもあたしはそんなフェミニストに銃殺されるような男とデートしないもの」

 

「確かにそうだね。時代遅れでバカ丸出しなことを言って悪かった。すまなかった!この通りだ」

 

土下座をして、頭を地面につけた。

 

「じゃあこのブーツ舐めたら許してあげる」

 

と彼女は言った。

 

「喜んで!」

 

と言ってブーツを舐めまわした。今日はほとんどブーツを舐めるか嗅ぐかしていないような気がしてまたクラクラしてきた。DMT作用か?DMT裁判はどうなるんだろう?ブーツにちんちんを入れてもいいけど嗅いでラリったらアウト!とかになるんだろうか?

 

別の朝、同じ小さなベッドで、俺は彼女を愛した。彼女はすでにブーツを履いていて、ため息をつきながら、足のひらで俺のペニスをさすっていた。立っている場所の反対側に鏡があるのが印象的だった。立っているでチンポのことだと思ったろ?えへへ。俺はペニスをブーツにこすり続けた。俺は興奮のあまり、唇だけを開き、左手を睾丸の下に入れて、全速力で往復運動を繰り返し、そして射精した。彼女は大きな笑い声をあげた。去年、マリエンバードで、の急な笑い声みたいな感じでエスプリが利いてるってーの?分からんけどさ、気持ちいいなぁー。

 

んでよ、俺が歯を磨きに行くと、彼女は俺の後をついてきた。彼女は、鏡に映る俺の姿を見たのだ。試しに俺が鏡に映る自分の顔半分を叩き割ると、彼女は驚きながらも、その衝動性に感心していた。

 

「もうやめてよ!」

 

「舐めろって言ったのは君じゃないか」

 

「これプラダのブーツなのよ。ありえない!」

 

彼女は拳で思い切り俺の鼻を殴った。軽い脳震盪を起こした後、血なまぐさい匂いがして、鼻から血がボトボト垂れた。所謂、鼻血である。

 

「はい。ティッシュ」

 

彼女はティッシュを差し出した。血まみれの手でそれを受け取ると、鼻にティッシュをあてがった。ティッシュに鼻をあてがう場合は?しかし鼻血の勢いが予想以上に凄いので、ティッシュが真っ赤に染まってしまった。そんなことを考えてる暇はない。血が、出血が・・・。

 

「プラダのブーツと俺、どっちが大事なんだよ」

 

と言った。

 

「プラダのブーツに決まってるでしょ」

 

と彼女は言った。そして彼女はハングリー・タイガーに戻って行った。俺はっつったらな、鼻血を出しながら駐車場に立ち尽くしていた。失血死したらどうしよう?と思えるぐらいの鼻血の量だ。彼女が店から出てきて

 

「はい。これ」

 

とトイレットペーパーを手渡してくれた。トイレから拝借してきたものらしい。急いでトイレットペーパーで鼻を押さえた。鼻でトイレットペーパーを押さえるとさすがにティッシュとは意味合いが違った。いや、そんなことより止血だ。

 

「ふん」

 

と彼女は言った。痛みと出血で憔悴しきっていて何も言えなかった。頭から雑音が流れ出す。耳障りなイラつく音。電子的な砂嵐の音。数秒間、それが続く。その後、唐突に音楽の断片。何年か前に流行したダンスミュージック。やはり唐突に、ガチャッという音がし、音楽は終わる。ふたたび雑音。音量は、最初のそれよりも、大きくなっている。小さくカラスの鳴き声。何かが金属にあたる音。続いて、何者かの息づかい。

 

男の人はみんな自分のちんちんを見せればそれで女の子が喜ぶと思っているのでしょうか。ちがいますよね? 私、何度もちがうって言ったのに! それでも聞いてくれないし!もう!失礼しちゃうわ。私、真剣だったんですよ? だって、妊娠するかもしれないってお医者さんからも言われてるのに・・・私の勝手な思い込みで赤ちゃんが出来て、私の勝手でアイドルをやめるだなんて、そんなの、ぜったいにいやですから!ファンダメンタリスト達にも攻撃されますわ、精子無しでの結婚じゃなくて妊娠だなんてリスキー過ぎます。歴史が改ざんされます。え?改ざんの意味が違う?

 

それに木内さんの赤ちゃんが産めたらいいなって思っていたから。も、もうっ! そうじゃないですってば! たしかに赤松さんとは結婚する約束をしてましたけど、でも、それだけじゃなくて! わ、私は本気で将来、あなたとの間に子どもを作る気だったんです。こんなディストピア化した世界に子供を産み落とすなんて残酷すぎるって?言えてる。言えてる。ロジハラとかって言うんですよ!そういうの!え?なんでって、私たち、もう付き合ってから2年ぐらい経つのにまだ結婚していないじゃないですか?

 

私、早く木村さんのお嫁さんになりたいんです。大好きな人と結婚して、幸せな家庭を築いて、赤ちゃんを産んで。そういうのがずっと夢だったから。でも、太田さんはそう思ってなかったのかなって思ったら、私、悲しくなっちゃって。だって、私の身体ってほら、全然子どもを作る準備が出来ていないじゃないですか? だから、お付き合いを始めたのにまだ結婚の話が出なかった時に何度も話し合ったんですよ? 私はいつでもいいのにって! 子供は親も世界も選べないって?それもロジハラです!産みたいというエゴがまた不幸な人間を一人増やすことになるというのは本当かもしれません。人類は滅亡に向かっています。

 

俺は失血死しそうになっているのに、ハングリー・タイガーでは様々な会話が行われていたが、それにしてもこの子、どういう経緯でちんちんを見せられたのか気になるな。鼻が折れているかもしれないってのにな。あとなんか色々と話が錯綜してて分からないけどディストピアって言いえて妙だな。妙ってほどでもないか。俺が子供の立場だったら生まれてくるの嫌だもんな。

 

鼻ってバキッって治す人いるけど映画でそういうの見たことあるけど治るのかな?全部の語尾をかな?で使った作文を書いたら「かな?」を使い過ぎですって添削されてたけど小学校の頃から変な文章を書くのが好きだったからそういうことばっかしてたな。あとアメリカのコミカレであれだ、テストの時、ソネット書けとか言われて腹立ったから引きこもりの男の短編みたいなのを書いたらテストの結果を渡されるときに俺だけ呼ばれなかったな。なかったことにされたんだ。キャンセルカルチャーの走りだな。でも思えば俺が短編の処女膜から血が出てフラフラしてきて意識が無くなって「アーユーオケイ?」って地下鉄で・・・なんだったっけ?やべー意識が朦朧としてきやがった。急にトグサのリボルバーが浮かんだ。