続き。
俺 そうかもしれません。ただ僕は彼らではありません。
男 呆れたものだな!両親はお前をこうやって甘やかし、お前もそれに甘えている。傑作だな!これは!
俺 ロボットに戻って一生、低賃金のロボットでいるよりかは、リスクがあってもそこから脱却した方がいいと考えているから、こっちにいるわけですよ。
男 それを甘えと言うんだ!
俺 そうかもしれません。ただスーパーのレジに戻ることにどれだけの意味があるんでしょうか?
男 何が言いたい?
俺 つまりですね、僕にはまだ選択肢があるから、自分にとって有利になる選択肢を選んでいるだけなんです。
男 ふざけたことを言うな。世の中には恵まれない人がたくさんいるんだぞ!
俺 それと僕とは関係がありません。
男 彼らを完全に敵に回すような言い草だな。
俺 いや、実際、そうだからです。僕には選択肢がある。彼らには無い。それだけのことです。
男 そんな自分を恥ずかしいとは思わないのか?
俺 スーパーのレジに戻るほうが自分にとっては恥ずかしいことです。
男 それは詭弁だな。
俺 なぜですか?
男 なぜならお前には今のようなお前のグータラ生活を許してくれる基盤があるから、そこに甘えているわけだ。それが無かったらどうするんだ?
俺 無かったらも何も、あるからそれを選んでいるわけです。
男 情けないな!お前は本当に。
俺 好き好んでワーキングプアになる人なんてこの世にいませんよ。ワーキングプアの彼らも他の楽で将来性のある選択肢があればそっちを選んでいますよ。
男 何が言いたいんだ?
俺 つまり僕はあなたの言うように、基盤があるから今の生活が出来ているわけです。
男 お前の家は金持ちなんだな?
俺 違います。相当無理をしています。家が傾いています。
男 家が傾いているのにソファーでオナニーか?
俺 そうです。だって僕が日本に帰ったって出来ることなんて何もありませんから。
男 必死に働いて、今までの恩なり借金を返せばいいじゃないか。
俺 スーパーのレジでですか?
男 スーパーのレジでもコンビニでもなんでも、お前が出来ることでだ!
俺 また話が逆転していますね。スーパーでバイトしなくてもいいように学校に行くのが社会だと言っていた割に、僕にスーパーのレジに戻れというなんて矛盾していませんか?
男 矛盾などしていない。
俺 なぜですか?
男 お前のそのグータラ生活とグータラ根性は親の稼ぎで成り立っているわけだ。グータラしている暇があったら働けと言っているんだ。
俺 いや、その「働け」というのがネックなんですよ。働けと言ってスーパーのレジしか無いのと、お金がかかるけど少しでも可能性がある道を選ぶのとでは、後者の方が建設的なのは当たり前なんです。
男 それを逃げだと言っているんだ!
俺 逃げの概念が違います。
男 どういうことだ?
俺 スーパーのレジに戻ることから逃げることが僕の逃げです。
男 それが現実逃避というやつだろう!世の中のニートと大差はないだろう。
俺 僕の場合、ちょっと違います。「働いたら負けかなと思っている」ではなく、ロボットになったら負けかなと思っているわけです。つまりロボットにならなくてもいいような仕事を得られるような人間にならないと僕は負けるわけです。その先にあるのは当然、経済的な自立です。ロボットにならなくても経済的な自立が可能になるような道を今、模索しているわけです。
男 また言い逃れをしているな。
俺 いや、言い逃れではありません。
男 みんながみんなお前のようなプチブルみたいな生活を出来るわけじゃないんだぞ?
俺 それはさっきも言ったでしょう。彼らと僕の生活は関係がありません。
男 ならばだ、お前は特権階級だと認めるのか?
続く。
- 作者: 秋山さと子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1983/08
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