行方不明の象を探して。その28。

目の前のことに嫌気が指してきたのだろう。人間の最低限のサイクルすらも拒絶しているように思われる。グワンばってもダメだ。やーめよっとっていうところの「やーめよっと」の感じはちびまる子ちゃんの「何々をやってあーげるの巻」ってことで薪をばら撒こう。

 

やめることの下克上。耳蝉さーん、「あ、ポリティカル」って言われたらもう俺はポリティカルではないのか。寝る前の甘いものはなぜあんなにも美味しいのか。それは国民そのものが幻想なのであってね、人生は幻想だって言ったところで、じゃあ手を「バチーン!」と叩いでごらんな裁判。イメージ的にはスト2の大パンチが入ったときのような音を期待するけどそんな音は現実には鳴らないよね。

 

あーあー、手が赤くなっちゃった。

 

彼女にとって、それは僕に向けられたものであったのに、彼女はネットのいくつかの書き込みをした後にテーブルの上に行ったのだが、そこには壁があった。僕はその前に彼女を見つけていた。想像もできない未知の領域と非日常体験が広がっていると思った。その淡々とした自然さと生き生きとした親しみやすさによって、彼女は壁の向こうの他の部屋、どれも同じような部屋に進んでいった。しかし彼女はそこで止まらず彼女の思考によって足を動かした。

 

彼女はさらに僕に蓄積された空虚について、それは誇りのようなもので、惨めに思う必要はないと付け加えた。彼女は僕の地平線に持っていなかった友情の感覚を得た。もちろん僕もそれを得た。確かに彼女がいなければ、僕は窒息寸前までいっていたかもしれない。そのままにしておいたというのは想像するだけで恐ろしくなる。僕はどのような世界も持っていなかった。

 

その上もっと色々なファンタスティックなことができるだろうなと思いながら、ちょうど立ち上がった江美子の相手を見上げた。思えば飲料のファンタもアシッド色だ。幻覚剤の色だよ。あれは。ディズニーアシッドとも言うべきか、ディズニーの曲をトランス風にしたディズニートランスみたいなものはあるけど、ディズニーアシッドというのは聞いたことがない。

 

自分でもアシッドトラックを製作する身としては作ってみようかと思ったが、さすがにコピーライト極左のアナーキストな自分でもディズニーモノに手を出すのは恐ろしい。ディズニー組はカスラック組以上の極悪なやくざの組織だと聞いている。誰でも自分の身を守りたいと思うのは普通のことだろう?

 

江美子が帰ってしまうと、一人で座っているのもつまらなくなった。江美子がいないだけでここまでつまらないのは、江美子のアシッド度が物凄いことを意味するのだなと思った。アシッド野郎はいるだけで気分を愉快にさせる。

 

彼女は最初は陽気だったのに、時間が経過していくにしたがって、どんどん生き生きとした雰囲気が失って退行していった。あんなにハイテンションだった彼女はどんどん喋らなくなり、生気のないただの物体のようになり、最終的に何の反応も示さない人形のようになった。

 

AI画像生成ブームなので「生気のないただの物体のようになり、最終的に何の反応も示さない人形のようになった」という指示文で画像を出力してみた。AI画像の挿絵がついている小説なんて素敵じゃない!とアリスは言った。

 

「だって挿絵が無い本なんてつまらないもの」

 

とドールが喋ったように思った。

 

生気のないただの物体のようになり、最終的に何の反応も示さない人形のようになった

他の知り合いなどいるはずもないのに、他の知り合いはいないかしら?と思って席を立った。DJブースのそばの壁にもたれかかってフロアを見渡す。DJをになりたかった頃はどれだけDJブースに入ることを夢見たことか。今ではスター的なDJ以外は全てAIのDJになっていて、客の反応をスキャンしては曲を変えるというアルゴリズムになっているというのを聞いたことがあるようなないような気がする。まぁ嘘だけどね。

 

フロアでかかっている曲はアシッドからクラシカルなNY系のハウスに変わっていた。フロアの盛り上がりが半端なかったので、センスのある客が多かったのだと思う。EDMで躍っているやつらは例外なく全てクズだ。仮にそのクズが生活では慈善事業をしていて、普段から慈愛に満ち溢れていて、全く文句のつけようがない人間だったとしても、EDMで躍ってしまった時点ですべての善行はかき消されてしまう。

 

理由が知りたいだって?それはEDMが悪魔に魂を売り渡したものの音楽だからさ。間違ってもズートルヴィが出始めの頃に当時のキリスト教の福音派みたいな連中が

 

「あれは悪魔の音楽だ」

 

なんて言ってズートルヴィを批判していたようなこととも違う。バートルヴィーの話はだいぶ後に出てくると思う。あのさ、なんでも悪魔悪魔って言えばいいってもんじゃないんだよ。エルヴィスだって悪魔の音楽扱いされたらしいじゃないかよ。どんだけ保守的なんだ。むしろ悪魔はお前だ。何かにつけては新しいものに文句をつけて文化の成長の足を引っ張ろうとするのは餓鬼の仕業だ。施餓鬼米を撒いておくからリーヴ・ミー・アローンしてくれたまえよ。

 

横の方には女の子に声をかけたのに体よく断れてゴムを噛んでいる男達がいる。中には頭がおかしくなって

 

「沢庵が耳から生えてる男」

 

とか言い出して、黄色いタオルを使ってそのフリをしているのだが、なかなかのA感覚だなと思ったよね。このA感覚はアナルじゃなくてアシッドのAなんだけども。

 

沢庵が耳から生えてる男

 

DJブースのところには花柄のブラウスにリバーシブルの紺の巻きスカートを履いた、文科系のサブカルっぽい小柄な女の子が二人いて、中にいるDJの男とキャッキャいいながら話している。ディスコ及びクラブのこういう雰囲気にはうんざりだ。

 

「完璧な選曲などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

 

とスカした雰囲気の気障なDJが女の子二人にそう言った。その本当の意味を理解できたのはずっと後のことだったが、少なくともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。完璧な選曲なんて存在しない、と。

 

デレク・ハートフィールドは1977年~1987年まで営業していたニューヨークの超人気ゲイクラブ「Paradise Garage(パラダイス・ガラージ)」のメインDJとして斬新なクラブサウンドを量産し、ニューヨークのクラブシーンを10年以上リードした。「パラダイス・ガレージ」は、デレクをイメージして作られたクラブであり、特定のDJのために作られた稀有なクラブだった。

 

デレクはここを音楽の神殿として扱い、音楽、音響設備以外にも、ありとあらゆるディテールに心を注ぎ、癒しの空間を提供し熱狂的なファンを魅了し、「ガラージュ」(又はガレージ・ミュージック)と呼ばれる一つの音楽ジャンルを生み出した。

 

「完璧な選曲などと言ったものは存在しない」という言葉はそのデレク・ハートフィールドの言葉だ。それをスカしたDJが女の子を釣るために、あたかも自分の言葉のように使っているのを見るとなんだか安心した。オリジナリティなんてあるわけないんだなと。本当はこうだよね。それをスカしたDJが女の子を釣るために、あたかも自分の言葉のように使っていたのを見て腹が立った。とか、イラっと来たとかね。でも分かんないからもういいや。

 

こういう風景ってオーディナリーなディスコの風景なのよね。そう思いながらヴィトンの小物入れから仕込んでいたジョイントを取り出そうとした。ラコステのポロシャツを着た男が声をかけてきたのはその時だった。多分、さっきまで黄色いタオルで沢庵芸をやっていた男だ。やはり黄色というのはマッドな色だ。

 

「一緒にファックしようよ」

 

と彼は言った。普通、ディスコで声をかけてくる男なんてもう少し遠回しな言葉で切り出してくるものだ。それがいきなりファックしようとは何事か。呆れてその男の顔を見た。なかなかハンサムな顔をしている。しばらく黙って彼の顔を見ていると彼は

 

「いやなら仕方ないね」

 

と、半ばあきらめたかのように言った。

 

「バカブー、きみね、女の子を引っ掛ける時には「ファックしませんか?」なんて絶対聞いちゃダメヨ。向こうが「チョットー」とか「コンプライアンス的にどうなんですか?最近日本でもこういうことをやると訴えるとかってケースが増えていますよ。オールドタイプの俳優とか監督が他の女優に無理やり関係を迫ったっていう報道とかがあるじゃないですか。バカブー、きみね、ロリータ。わが命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。線香の青雲のCMご存じでしょう?ファインマンさん?あれの元になったのはナボコフのロリータなのよ。

 

だって青雲、それは君が見た光、とかおかしいでしょ。なんで線香が光を見るのかわけがわからないでしょ。それは君が見た光だから、青雲とはまさに君が見た光のようなものだと言っていたとしても、やっぱり線香を擬人化しているとしか思えないわ。バカブー、君ね、ヒメネスのカオスルートを辿っちゃダメなのよ。レーニンのLawルートならいいわ。最終的に農民が武装蜂起して政府を転覆するエンディングになるからね。でもそんなロシア革命というクールな歴史を持った国がRussian Bloody Daysというバンドを結成して、スターリンと対バンしたりしたでしょ?

 

青雲、それは君が見た光

 

あげくの果てに狂った大統領が戦争をしかけたのも全部そのせいなのよ。ロシア。それは呪われた歴史。ロシア正教がロシアと癒着しているというのも意味が分からないわ。なんでキリスト教である必要があるのかしら?スッポンポンのラリーズって知ってる?ラリってるからラリーズって説もあるとかないとか。メンバーは水谷聖というフィールドレコーディング作家オンリーよ。だからバンドというよりソロユニットね」カギ括弧を乱用しまた墓石。破壊し瓦を20枚割った後、イデアに向かって敬礼した。