行方不明の象を探して。その178。

主のいなくなった寝室はそのままにしてある。彼は彼女がどこか旅行にいったのだと思っているようだ。

 

「ホドロフスキーのタロットの本どうだったの?」

 

「カモワン主義者って感じだね。これ以外認めん!とかってなった時点でイデオロギー的というか、そもそもタロットって何かを見るためのツールでしかないから、別に人によってはサイコロでもいいわけだし、水晶で見る人もいるわけだし、何か特定のものじゃないと正確なものが見えないなんてことはないね」

 

「あれじゃない?熟練のタロット占い師に言われたさ、あなたはすでに見えてるから他人の占いの解釈とか見え方とか習っても全く何も入ってこないわよって言われたのが凄く納得するんじゃない?」

 

「まさにそうだね。学習するものとしてのタロットってのもあるのかもしれないけど、自分でやっててなんか見えてたり降りてくるものがあったらそれが一番いいと思うんだよね。そもそもそういう直観力とか降りてくるものってのを鍛えない限り凡庸なタロット解釈しかできないし、リーディングはただのカウンセリングみたいになっちゃうよね」

 

「そういうのはAIで淘汰されるって言ってたね」

 

「あ、俺が言ったってことでしょ?そりゃそうでしょ。アルゴリズム的なものは大体AIで置き換えられるよ。あと例えば鑑定してもらうためにその日の午後の時間を空けてさ、わざわざ遠くまで行ってつまらない話を一時間聞かされて終わりとか地獄でしかないでしょ?」

 

「サービス業としてアウトってことか」

 

「そうそう。エンタメ的なのを期待してる人もいるかもしれないからこそ見世物的でもいいからサイキック的なものを見せたり感じてもらったほうがサービス業として対価をもらうっていうことにおいて誠実だと思うんだよね」

 

「まさにそうだね。そういえばこないだ言ってた実験はやってみたの?」

 

「やったよ」

 

「どうだった?」

 

「端的に言って良かった。でもまぁ外でイッちゃってる状態の時とあんまり変わらなかったけどね」

 

「なるほどね」

 

「読者のために説明するとあれだ、体脱導入のCDを永遠とウォークマンで聴きながら外出するというもので、まぁ真似したら危険だから絶対やらないでほしいんだけど、でも物質世界から出ようとするやつにとっては凄い良い修行になるんだよね。変性意識のまま街を歩くっていうのかな、まぁでも当然、変なものを受けちゃうとか当たっちゃうとかっていうことはもう無いっていう、ある程度の精神修行を終えた後でやるって感じだけどね」

 

「バリアが無かったらズボズボだもんね」

 

「そりゃそうだ。んでまぁまさに心ここにあらずになるんで嫌な人混みとかがそこまで気にならなくなる。そもそも俺の実体は宇宙にあって地球にないというのを認識だけではなく身体的な実感として学ぶことができるからね」

 

「体脱マニアだね」

 

「マニアっていうか物質世界でやっていけないっていうかつまらな過ぎるからそっちをやるしかないっていう必要性だよね。あと全然幽体離脱して死ぬなんてことが無いってのも良く分かった。これも例のタロット占いの人が俺に言ってくれたことなんだけどね、まぁ正しかったんだね。あなたは幽体離脱なんてしないわよってマジだったっていう」

 

「まぁでも子供の頃は酷かったんでしょう?」

 

「子供の頃はガバガバだったからね。色んなものに呼ばれたりしてたけど、今はある程度の防御の手段とかも分かってるし、闇断ちしてからだいぶ経つし、そういうところは徹底してるからね。まぁんで体脱土産みたいな感じだよね。俗に霊感と呼ばれるものとかビジョンみたいなものって」

 

「あれでしょ?変性意識とか体脱してるときのほうがホーム感があるわけでしょ?」

 

「そうそう。この世に居場所ないからね、でもやっと居場所が見つかったって感じ。で、それって物理的な居場所とかに依存しないからいいんだよね」

 

「松村潔先生があれだね、人類の5パーセントぐらいはナチュラルにそっちのほうに向かうやつらがいるって言ってたけど、君がまさにそんな感じだね」

 

「そうそう。よっしゃやろう!とかって思うようなもんではないんだよね。もう無理!とか切羽詰まってるとか、あとはまぁやたらそっちのほうに興味が行っちゃうとかっていうナチュラルな感じだよね。だからまぁ修行でもなんでもないんだよね。好きだからやっているだけでそっちのほうがやっていけるからやっているだけなんだけど副次的にいろんなものを得られるってことなんだよね」

 

「なるほどね」

 

「あ、んでさ、体脱ってまぁ段階にもよるけど別に目を瞑らなくてもできるんだよね。静かなところでやるっつーより渋谷とか新宿の日中みたいなざわざわしたところで瞑想用のCDとかを聴いて瞑想状態に入れるほうがいい」

 

「心地よい環境とかに依存しないでどんな場所からでも瞑想状態とか体脱できるってことだね」

 

「そうそう。でも身体のコントロールは利いてるし一瞬で体に降りてくることもできる」

 

「スクワットみたいな感じってこないだ言ってたよね」

 

「体脱、戻る、体脱、戻るっていうのをすぐできるっていう上下の運動ね。多分あれだね、一般的なガイダンスみたいなのが凄く安全重視してるのは万が一のことがあったときに責任問題になるからってことなんだろうね。ただまぁその一方で体脱を自在にできるやつがいると自分のセミナーとかビジネスが成立しなくなるからあえて遠回しに時間がかかります!っていう考えを押し付けてマスタークラスに行くまでには時間がかかります!なんつって金を取ってるっていうのがありそうな感じだね」

 

「それは勉強も一緒じゃない?一年ぐらいかかりますっつって実際は一週間ぐらいでできるやつとか多いもんね」

 

「まぁ一年ってのは統計的に一年なんであってそうじゃないやつもいるってだけの話なのに、そうじゃないやつに一週間で終わることを一年もやらせるのは嫌がらせ以外の何でもないよね」

 

「時間をかけなきゃいけないやつもあるけど、すぐにできるやつをやらない手はないよね」

 

「そりゃそうだ。そのほうが合理的でしょ」

 

「あの寿司屋のナンセンスだよね。寿司屋の修行で玉子焼きを焼かせてもらえるまでに三年かかるんだっけ?」

 

「そうそう、なんかああいう徒弟システムの延長みたいな飼い殺しっつーか封建的っていうかさ、あれじゃ伸びるやつも伸びなくなるからね」

 

「でも出る杭を打たれないようにしないといけないね」

 

「そりゃそうだよ。俺は前衛だけど表に出るって意味での前衛じゃないからね。表に出ても得することなんてないでしょ」

 

「でもそう思うと君は昔からそういうマインドだったよね。仙人っぽいっていうか、10代の頃からそういう感じだったよね」

 

「そういう性分なんだと思うんだよね。でもそれはそれが自分にとって自然なんだからそれを追求した方がいいでしょ。無理にこの物理世界に適応すると凄く大変なことになるんだったらオルタナティヴを探した方がいい」

 

ジャーニーだ。でも同じところを行ったり来たりしているだけなんだな。言わばループさ。でも物質世界に囚われるよりかはマシなんだ。久々の外出だ。エーテル界を行き来してきたから。

 

そう言ったのか思ったのか旅する馬鹿は旅の準備を整えるために街の広場へと向かった。街に行く感じはウィザードリーのようなボタンを押しただけで街に行く感じで、基本的にイマジネーションに委ねられるわけで、どんな街か?どんな広場か?その広場にブリンブリンのマジックを披露している魔法使いが居た。初対面なのだけど、何度も会っている気がする。あっちもそういう気持ちでいるに違いないのはサイキックな感覚がそう囁いている。エルゴが囁いていたら?それは機械だ。