行方不明の象を探して。その211。

そういう現場があったらしいが、何も覚えていない。何も覚えていないのだ。ただ、濡れた灰色の砂浜を行き交う潮の泡のまぶしい光を延々と見つめている。何もかもが白い。すべてが白く、境界線は壊れてしまった。その日から、僕は欠かさず夢を見るようになった。夢から覚めて、涙を流して反芻している自分に気がついた。僕は快感を覚えた。

 

昔のソレはボロボロになって運ばれ、つい今朝まで、金柑を勧め合っていた男の姿のままであった。正体不明のゆるみにも似たものが体中に広がる。その正体不明のゆるみが体に広がることで、体は老いていく。床に突っ伏していた残りの腕は、思いがけず折れてしまった。床に突き立てられていた残りの腕が、突然折れ、荒々しく吃驚する。残りの腕は、どうすればいいんだろう?

 

知ってる、知ってる、この疲れがどこから来るか知ってる。俺はこの疲れがどこから来るか知っている。似合わないのも重々承知している。まるで南国のシャワーの後の点滴のように、流れては洗われる。「チフス御大」の首は、憂鬱な昏睡の中でねじれた。これに気づいてから、背骨の7番目の骨が急速に回転し始めた。実は今週の初めから、なぜだろうと考えていた。

 

爪の先端の淡い花瓶から爪の根元の淡いピクピクまで、だらだらとグラデーションを頬の横に浮き上がらせる爪の傷跡。彼女の大きな瞳はやや内側に傾き、耳は視界を空白にして聞いている。耳で音を追った。中腰でひらひらと動く互いの虹彩をじっと見つめる。彼らは互いの虹彩を見つめながら、半分聞いていて、半分聞いていない。いや、聴いている。すばらしいことだ。そして二人はもうイップスを終えて走り出した。ダークブラウンの瞳が静かにあなたを見つめる。好きなだけ見つめていても、少しも苦痛を感じない。

 

そして僕は無言で彼女の上着をゆっくりと脱がし、パリッとした皺のないシャツのボタンを外し、シャツを脱がす。そしてブラジャーを外す。彼女はセックスを始める前の女の典型的な顔つきになっていて、とてもつまらなく感じてしまった。それでもしつこいようだが彼女は美人なので、それなりに興奮するところはある。あと土に還る前の彼女のほうがエロかったとか、そういうことはない。どちらの彼女も平等にエロいし、同一性に少し疑問を抱いているだけで、実際の彼女は変わっていないのかもしれない。

 

ただおかしなことがあったから、それをきっかけにちょっと変化したように思える彼女の素振りが、土に還って戻ってきたということに無理やり繋げられて、同一性に対しての疑問を生じさせただけで、彼女は彼女のままだ。女性のパーツで脚にしか興味はないのだが、彼女の性感帯のことを考えると結局、乳首が良いと思えたので、乳首をしゃぶることにした。乳に関心が無い人間が言うのも難なのだが、彼女の乳は美しいと思う。あくまで一般的な意味で。大きさも形もちょうどいい。まさにしゃぶるのにちょうどいい感じだ。

 

左右の乳首をしゃぶる間隔を数学的な厳密さで均等に分けた、しかし数学的な厳密さといってもタイムウォッチで時間を図るわけではないので、あくまで感覚的なものである。右の乳をしゃぶってそろそろ次かなと思ったら左の乳をしゃぶるというような気まぐれではなくて、時間やしゃぶった回数や彼女の反応を見ながら、それでも均等さに意識が行き過ぎないように、あくまでこれは愛撫であるという愛情を忘れないまま、均等にしゃぶる必要がある。

 

ただしゃぶりすぎると、乳への刺激が断続的に左右続くために、陰部を舐めるのとはだいぶ違う意味で、感覚が鈍化してしまう可能性がある。だから均一性を保ちながらも、徐々に舐める箇所を増やしていって、それを彼女の耳たぶにしたり、顔にキスをしたりということも均等にやっていく必要があると思っていた。

 

しかし人間が一度に頭で処理できることは限られていて、均等さを厳密に守ったまま、愛情も忘れずに、それが機械的にならないように工夫して、なおかつ場所を増やしていくという次の手を考えるというのは、将棋の名人が頭の中で何手先までのバリエーションを対局中に考えるようなもので、愛撫の名人ではないので、先を読むのは大変なことだった。

 

それも今回の土に還った彼女を前にしての思い付きなので、これまでそういった愛撫をしたことがない。将棋のルールは知っているが、対局の経験は多くないという、将棋の初心者のようなものだ。しかそれも初心者のようなものなのであって、行為が将棋やほかのゲームに還元できるようなものではなく、思いついた愛撫の方法が、他の何にも還元できないものとしてそこに現前していて、厄介なことを初めてしまったものだと思いつつも、そこに決してそれを後悔していない。

 

だんだんと左右の乳首の愛撫がダラけた惰性のように感じられてきたので、思い切って愛撫するパーツを一気に増やした。先ほど言ったキスと耳である。しかしセックスにはリズムがあるので、彼女の反応によって愛撫の方法を変える必要があるのだが、愛撫を均等に分けることは妥協できなかった。なぜそうなったのかと言えば、これもまた彼女が土に戻って帰ってきたからとしか言いようがないと思う。

 

それ以外になぜそういうことをするようになったかの理由が全く思いつかない。問題は何のために愛撫するのかである。先にセックスがあるのか、いつものように脚への愛撫と脚コキを混ぜたプレイにするのか、彼女が土に還る前のようにエロスに殉教するためにセックスはしないようにするのか。しかし思いがけない発見があった。この均等な愛撫には愛はあるのだが、決して性欲が優位になるような動物性はなく、おかげでエロスを保ったまま、それが肉欲によって汚されることがないまま、セックスのようなことをすることができるということだった。

 

スーツにネクタイを締め、ブリーフケースを持って電車で出勤する、私にとっては典型的な月曜日の朝だった。しかし、今日は違った。ロングブーツに包まれた長い脚を前に伸ばし、太ももがわずかに見える程度にスカートをたくし上げている女性が私の前に座っていた。一瞬でペニスが勃起した。ムクムク・・・という感じではなく条件反射のような速さで滑稽ですらあった。私は目をそらし、新聞や窓の外の景色に集中しようとしたが、視線は彼女のブーツのほうへ戻ってきた。

 

陶器のような肌と、平凡な車内で不自然なぐらいにキラキラと輝くような青い瞳。髪は黒髪で、ゆるくウェーブを描いて肩から流れ落ち、彼女の顔を完璧に縁取っていた。彼女は本を読んでいたが、私から視姦されていることには気づかなかった。

 

列車が線路に沿って走るにつれ、私はますます興奮している自分に気づいた。ズボンの中は我慢汁でびちゃびちゃになっており、頭は火照り果てており使い物にならなくなっていた。これほど強い魅力を感じたのはいつ以来だろうか。結婚して子供もいる身で、こんなことを考えてはいけないのだが、自分ではどうすることもできなかった。私は炎に吸い寄せられる蛾のように彼女に惹かれた。

 

私は勃起していることに気づかれないように、車内を見回した。私は自分の興奮を隠そうと少し姿勢を正したが、事態を悪化させるだけだったようだ。私は彼女に何をしたいのか、彼女に触れたいのか、彼女にキスしたいのか、彼女と愛し合いたいのか、いや、それもそうだが、あの美脚に包まれた黒光りするブーツを愛でながら、我慢汁まみれになった自分のイチモツをブーツに擦りつけて、下等生物である自分の精液でその崇高に黒光りするブーツを白く塗りつぶしたい、彼女のブーツを脱がして脚を舐めて掃除してあげたい、だのとにかくキリがなく、その妄想はアカシックレコード以上の情報量を誇っており、このぐらい頭が回れば社会的に成功しそうなものなのだが、などと思って居ると車掌が次の停車駅を告げた。

 

彼女は本から顔を上げ、私に微笑みかけたように思えた。頭が完全にイッていたので微笑みかけたように思っただけだろう。むしろ迷惑がっていたのかもしれない。

 

「すみません」

 

と彼女は立ち上がり、荷物をまとめた。

 

私は吐き気がするぐらいの動悸に耐えながら、彼女がドアに向かうのを見送った。電車を降りると、彼女は振り返って私の目をとらえ、小さく手を振ってから人ごみの中に消えていった。手を振ったのは間違いなかった。コツンコツン・・・というブーツの音が頭から離れない。ということは彼女は私がジロジロブーツを見ていたのを知っていたのだろうか?

 

私はしばらくの間、呆然としていた。何が起こったのか信じられなかった。電車に乗っている間中、この美しい見知らぬ美脚ロングブーツ女性のことを視姦していたのに、彼女がいなくなってしまったのだ。私は安堵と失望が入り混じったような気持ちになった。

 

頭がおかしくなったので会社を辞めることにした。あんなことがあってからでは今までの生活を送れるわけがない。妻とも離婚しよう。ポリコレガン無視で子供のことも考えないようにしよう。育児放棄するよりかは妻に子供を任せておいたほうがいい。

 

論理が飛躍し過ぎているのかもしれない。でもその論理の飛躍を裏付ける思いがけないことが起こったのだ。あの日の昼頃、私の携帯電話がポケットの中で鳴り、取り出してみると、知らない番号からのメッセージが届いていた。

 

「こんにちは。今日、電車であなたが私を見ているのに気づきました。いつか会いませんか?」

 

私は血の毛が引いた。恐怖すら覚えた。喜びというのを通り越すとこのようになるのだなと後に思ったのだが、本当に気を保つのが大変で、とにかく眩暈がし吐き気が襲ってきた。心臓は高鳴るどころではない。このまま私は死ぬのか?と思ったぐらい激しい動機は収まることがなかった。イチモツのことを考えている余裕はなかったのだが、なにしろ恐怖を感じていたので、恐らく縮んでいたと思う。

 

「こんなことが起こるのか!」

 

という喜びは一切なかった。

 

「俺は死ぬのか?」

 

という思いだけが頭の中で暴走し続けた。本当に彼女なのだろうか?私は興奮で指を震わせながら、すぐに返事をタイプした。

 

「はい。ぜひお会いしたいです」

 

とだけ書いた。それすらタイプするのが難しかった。私達は電話番号を交換し、その日の夜に会う約束をした。私はその日の残りをぼんやりと過ごし、彼女との再会を思い浮かべる以外には何も集中できなかった。そして夜が訪れ、私は緊張と興奮の中、約束の場所で待っていた。

 

すると彼女は喫茶店の外に立っていて、私の記憶以上に美しく見えた。二人はぎこちなく会話をした。しかし、席に着いて話し始めるとすぐに、私は自分がトラブルに巻き込まれていることを悟った。どうすればこの衝動を止められるのかわからなかったのだ。この異世界に急に飛ばされたような感じ。もう戻れないという感覚。

 

私:こんにちは!僕は女性の脚とブーツに夢中なんだ。セクシーなブーツを履いた美脚を見ると、思わず見とれてしまうんだ。友達には変だと思われるけど、気にしない。あの光景がたまらないんだ。

 

彼女:こんにちは!女性の脚やブーツがお好きなのはよくわかります。しかし、人の体はその人自身のものであり、敬意をもって扱われるべきものであることを忘れてはいけません。また、自分の行動が他の人にどのような影響を与えるかを考えることも大切です。じろじろ見るのではなく、その人と関わりを持ち、一人の人間としてその人を知るようにしましょう。その人の興味や趣味、価値観に注目することで、より深いつながりが生まれ、その人がどんな人なのかを理解することができます。さらに、人にはいろいろな形や大きさがあり、外見に関係なく、誰もが尊厳と敬意を持って扱われるべきだということを認識することも大切です。

 

私:そうだね。そんな風に考えたことはなかった。ただその場の雰囲気にのまれて、どうしようもなくなってしまうんだ。でも、気持ち悪いとか、無礼だと思われたくない。もっと健全に女性の脚やブーツを鑑賞する方法を教えてもらえませんか?

 

彼女: もちろんです!まずは、女性の身体は賞賛されたりフェティシズム化されたりする対象ではないということを認識することから始めましょう。むしろ、彼女たちは主体性、自律性、個性を持った人間なのです。女性を尊重し、対等な立場で関わることから始めましょう。外見だけに注目するのではなく、興味や趣味、情熱について質問してみてください。そうすることで、相手の人間性をより深く理解し、理解することができます。

 

さらに、あなたが女性の脚やブーツに魅力を感じる理由を探ることも役に立つかもしれません。それは社会の期待や文化的規範のせいなのか?それとも、あなたの魅力の根底には何か他のものがあるのだろうか?自分の動機や意図を調べることで、自分の行動を洞察し、より健全な憧れの表現方法を見つけることができるかもしれません。

 

最後に、美に対する多様な視点や表現を求めてみることも考えてみましょう。美の基準はひとつではありません。異なる文化やスタイル、表現方法に触れることで、美とはどのようなものなのか、理解と認識を深めることができます。そうすることで、特定の体の部位を客観視することから離れ、ユニークな資質や特徴を大切にするようになります。

 

健康的な習慣を身につけるには時間と努力が必要ですが、最終的にはそれだけの価値があることを忘れないでください。自己反省、共感、尊重を実践することで、健全な人間関係と自己成長を促す前向きな行動を培うことができます。

 

その夜、別れ際、私は自分の人生が永遠に変わろうとしている感覚を拭えなかった。長い間、その考え方が本当に自分だけに有効なのか、単なる迷信ではないのか、その可能性と戦い続けてきたのである。その考えとは、すべての人間は、自分の行動ではなく、どこからかやってくるブーツ舐めと非ブーツ舐めのサイクルに支配されているというものだ。

 

昼休みに行われるスピーチの補習に参加することになり、昼食の時間をずらすことになったので、何かが間違っていることが分かったっていうかマジでおかしい。一年目のくせに何言ってんだか。いつもその話聞くよね。そこに電気のコンセントがあり、ドカン!

 

ブーツを舐めていれば感電はしない。でも舐め続ける必然性がない。でもどうせ翌朝になったら、ニワトリはみんな酔っぱらっているだろう。その時の気分の良さは、うまく説明できない。俺はもっと深遠な哲学に足を突っ込んでいるつもりだったのに、もっとシンプルだったね。分からないけど。

 

だから基本的には均等さにフォーカスすることにした。均等さにおいては特にエロスや彼女への愛がなくなっているわけではなく、ただそこにフォーカスするということだけで、他を捨てることは意味しなかったので、基本に立ち返るためにも均等さにフォーカスして愛撫を続けた。彼女の顔を横目で見ながらゆっくりと時間をかけて乳首をしゃぶり続けた。たまに他の部分を愛撫するときは30秒前ぐらいにはほかのところを愛撫する準備を頭の中でシミュレーションしながら、均等さを保った愛撫をするのだった。