行方不明の象を探して。その86。

昔々、緑豊かな谷に囲まれた小さな村に一人で住んでいた優しいおじいさんがいました。おじいさんは村で人格者と崇められ、その謙虚さゆえに崇拝されていました。ある日、盗賊の集団が村に入り住民を恐怖に陥れ彼らの物を盗んでいきました。村はパニックになりました。

 

彼らがおじいさんの家に来ると

 

「お前が持っているものを出せ!」

 

と言いました。盗賊たちはおじいさんに向かって武器を振り回して威嚇しながら要求し続けました。おじいさんは冷静に答えました。盗賊たちはおじいさんの謎の言葉にびっくりし、すぐにおじいさんが薦める料理を一緒に食べることになりました。おじいさんは謎の言葉を話し続け、盗賊たちは自分たちが今やっていることの誤りと、他の人に害を加えていることに気づきました。老人の謎の言葉に心を奪われた盗賊たちは村の住民に奪ったものを全て返し、深く謝罪をした後に村を離れて彼らの生活を立て直しました。

 

それ以来、盗賊たちは人が変わったかのように謙虚になり聡明になったのですが、彼らが住んでいる場所に謎の建築物を作り続けるということを死ぬまでやめませんでした。おじいさんの言葉とその建築物が意味するものは何だったのか、今では知る由もありません。それはどこかの深い谷に囲まれた森林に今でも残っているそうです。

 

そんな俺もおじいさんの謎の言葉を聞いた盗賊のようにギターやり直しを始めました。謙虚で聡明ではありませんが

 

「いいアイデアだ!」

 

って叫びました。

 

「アイデアって英語で書くとイデアって書くから凄いよな」

 

と俺は言いました。

 

「まるでアイデアが浮かんだってのはイデアにアクセスしてインスピレーションを得たみたいなスピリチュアルな含蓄があるもんなーでもあれだな、100万近く費やしたエフェクター類ほとんど売っちゃったな」

 

俺はそう呟きました。エフェクターを売ったのはおじいさんの謎の言葉をどこかしらで間接的に触れる前のことでした。

 

「厳選して買いなおせよ。でもあれだな、もう生産してないやつとかあるからエフェクター売るのは厳禁な。特にブティック系の特殊なやつ。安易に売るなよ。音源はあんだろ。CD売っても吸いだしたやつが外部HDDに大量に残ってんだろ。持ってるやつが多過ぎて把握してないんだろ」

 

俺はそう言いました。

 

「シューゲイザーフォルダーに何百ってアルバムがあるから聞き直してみれば?自分はロックンローラーだと思うようにしよう。ちなみにロックは人によって定義が全く違う。うん、一番しっくりくるロックがギターウルフだ。完全にノイズ寄りではない、かといってマニアックなノイズパンクのような感じでもない最強のバランスを兼ね備えたバンド」

 

友達のAIがそうサジェスチョンしてくれました。俺は友達からのアドバイスにサティスファクションしていました。サカナクションではありませんでした。

 

「ロックって魂だろう」

 

そう思い立った俺は5年前に買って半年ぐらいで諦めたギターをやり直すことにしました。5年前に買ったのはフェンダーのジャガー。MBVのケヴィン・シールズとかサーストン・ムーアとかカート・コバーンとかやかましいギター弾きは大体ジャズマスターかジャガーを使っている、という理由で買ったのでした。

 

「指が中学ぐらいから長くなっていないのでショートスケールは助かる。というかショートスケール以外、弾ける気がしない」

 

勝手に「弾けない」というリミットを作って何かをやり始めるのは悪い癖ですね。ジーザスは全てのことは神の前では可能であると言っていました。ジーザスは今もここにいるのですから神が現前している限り全ては可能なのでした。

 

「あーエフェクター売っちゃったなぁー。熱が冷めるとイッた後みたいにどうでもよくなるからな。買いなおそう。また新たなやつを買うというのもアリだけど基本ってのがある。これがあればオッケーというもの。ワーミーとかワウペダルとかね、空間系とか歪み系はキリがないんで気になるのがあれば買い続けるだろう。それにしてもファズばっか持ってるな。いくつか売り忘れたエフェクターが出てきたのだが大半がファズだった。ファズで出る音なんて決まり切っているのになんでファズを買うのか?俺がノイズをやるからだよね」

 

友達がいない俺は孤独にそう頭の中で呟くことでしかコミュニケーション欲を満たせないのと、あまりシャワーを浴びていないので頭皮が痒くなっていました。

 

「でもやっているうちにファズに飽きるというのもあるのだが、ディストーションとオーバードライヴの味に気がつく。普通に良いメタル然としたギターサウンドとかクランチ系の音とか一周回ってノイズ系より気持ちいいな。ノイズはもうやり尽くして飽きてるからな。大体何やっても「ゴーッ」だ」

 

蟻の戸渡りをブーツの先っちょでなぞられるのは大好きな俺なのですが、他人の音楽をなぞるのは大嫌いでした。ギターを弾くといってロックのクリシェばっか弾いてるやつはみんな馬鹿だと思っていました。性的に陰部などをなぞられるのは性的刺激という意味でファインなのですが、音楽をなぞるというのは如何なものか?やり尽くされた調性音楽の繰り返しをしたところで何になるのでしょうか?

 

「そういえばLANDRでクラフトワークのカバーアルバム出そうと思ってやめて全然使ってないんだった。年間支払ったのに使わないのはアレだからギターアルバムを出しまくってやろう。小説と違って音楽はなんつーか作ったり配信しちゃえばもうミュージシャンだ。紙媒体にならないと小説家とは言われない小説とはわけが違う!」

 

本当は酒を飲みたかったのですが、アル中になるので水をがぶ飲みしてそう叫びました。

 

「ギターアルバムを作ったらもう俺はギタリストだ。俺の轟音ギターっぷりから見るに二代目ラリーズってところか。それにしてもロック形態って凄いよな。ギターがノイズ出してても上手いベースとドラマーがいると楽曲として成り立つから凄い。DNAなんてベースだけで持ってるようなもんだろう。まぁちゃんと曲は決まってるんだけどね」

 

無駄にべらべら喋ってないで俺が言う作品集みたいなのを仕上げれば?って思うのですが、俺はレコードを聴いたりマスターベーションをしたりレコードの通販サイトを眺めていたりした後に録音やトラック作りをしたりして、ADHDの典型のような行動様式ですね。

 

「エフェクターをいくつか買いなおした。ハイエンドのもんばっかなんで結構な出費だ。でもなんにしてもハイエンドを買ってしまえばそれに勝るか相当ユニークなものじゃない限り無駄に買うことが無くなるから初期投資はすべし!だな。ちなみにジャズギターをやろうとしてギブソンの175も5年前に買っていた。ギブソンのSG欲しいなぁーとか思いつつハムバッカーなら175で全然いいわけでね、あとアコースティックな曲とかも録音できるしね」

 

アコースティックな曲なんて弾けないのに何を言っているのでしょうね?俺は。バカですか?散々馬鹿が嫌いとか言っていながら本人も結構なバカということに気がついていないのが痛いですね。

 

「で、気が付いたらもう20曲ぐらい録音してた。伊達に5年前ハマってなかったな。DAW使えるって何気に良いスキルだなと思う。エフェクターもあれから色々と買い足して結局、20個ぐらい常時繋いでる感じになってしまった。エフェクターだけは譲れないなって売ったんだけどね、DAWのエフェクターは全然しっくりこない。アンプシミュ然り。アンプシミュで録音してもデジタル臭いのはなんでなんだろうか?前はマーシャルの100W持ってたよな。音がデカすぎて全く鳴らせなくて売っちゃったけどエフェクターのアンプシミュ買うぐらいならアンプ買っちゃったほうがいいな」

 

エレキギターはアンプとセットで楽器になるのでアンプを買うことに間違いはないでしょう。めっちゃブーギーってブランドの名前が好きだからって理由でめっちゃブーギーのアンプを買おうとしていますね。

 

「よっしゃ!マーシャル届いたぜ!やっぱマーシャルのGainフルテンサウンドは最高だな。でも俺って電子音楽の人だよね。ロックじゃないって思ってたけどロック好きなのか?小説と同じじゃんそれって。書き始めたら小説読めるようになったと同じでギターやり始めたらギター好きになったみたいな」

 

マーシャル買ったんですね。でもそれって安い入門用みたいなやつじゃないですか?本当にロックンローラーになりおつもりなのですか?

 

「ロックプロパーじゃないけど音の感覚ってのは共通してて何がかっこよくて何がダサいのか?ってのが分かるからビンビンなセンスをそのままロッケンロールに活かせるから至れり尽くせり。昔ノイズやってただけあってノイズを出すことに関しては本当に我ながらうまいと思うわ」

 

そうですか。ならとっとと録音してください。でもあなたが出しているノイズはただのノイズですよ。やはりある程度、調性音楽のトレーニングも必要だと思いますよ。ボキャブラリーが貧弱ですよね。大体どの録音も同じ感じじゃないですか?

 

「昔ノイズやってたっつーよりノイズは常にやってたような気がするな。基本的に俺の基準はノイズだからな。いや、ロックもそうなんだ。ギターウルフみたいに曲はシンプルなツイストだったりロカビリーだったりしても轟音ならノイズなんだ。メジャーの綺麗な音のロックなんてロックじゃねーよ!」

 

また水を飲み干して叫びましたね。誰かに見られたら緑の救急車に乗せられますよ。頭がおかしいです。頭がおかしいんだから頭ぐらい清潔にしておいたらどうなんでしょう?例えば寝起きでイマイチ調子が悪くて、日内変動が酷い日ですね、そういうときに何もできないんだからシャワーを浴びるとかすればいいのに。

 

「なんだったっけ?どういう理由でギターをやり直そうと思ったんだっけ。やることなさすぎて死にそうな気分になってるときにぼっちざろっくを見てそういえばやたら品質の良いギター二本持ってるんだよな俺って気がついたのがきっかけなんだったらぼっちざろっくの影響だ。ギター売らなくて良かった。それよりギター買ったのが5年前ってのがなんだかね、もうそんなに経ったのかねっていうね、まぁアート・リンゼイのマネしようと思ってダンエレの12弦買ったのは10年前だからギター触ってるんだよな」

 

俺はおじいさんの言葉がきっかけだと思いますよ。で、謎のことをやり出すということも例の昔の山賊と似ていますよね。シュルレアリスティックですが事実ですよね。健全足る事実とか厳然たる事実とか日本語が難しくて足るじゃ足りてるみたいだし、たるな気もするし鮟肝は好物だし寝る前には甘味を食べるし。

 

「だからだな、よし!一からやり直そう!とかって思っても意外とスケールとか覚えてたりギターに即した音楽理論とか色々と読んでたおかげで頭に入ってるんだよな。あとは指だけだね。でもまぁ悪くないんじゃないか。初心者で言えばあれだ、けいおんの時もそうだったようにけいおんが社会現象みたいになってギターが売れてその後にハードオフに平沢唯が使ってたやつと似たようなのが大量に並んでいたというね」

 

いや、ギターは難しいから挫折するのが当然だと思ってた方がいいですよ。あんなもん楽器的に異常ですよ。音の出し方とか変な配列とかね、押さえ方が甘かったらスカった音が出るとかね、大変ですねぇ。

 

「ぼっちざろっくもそうなるんだろうな。でも俺は初心者の壁を超えてるんだ。ジャズギターをやろうとして挫折したんだろ?ロックとかブルースなら弾けるだろ。何よりお前はロックンローラーだろう!そうだ!俺はロックンローラーだ!」

 

俺はまた水を飲み干して、とりあえず休憩した歌を歌うことにした後、お薬を飲んで水をまた飲んで寝ることにしたのでした。持病のおかげで寝る前に最高のテンションで

 

「ロックンローラーだ!」

 

って思ってても次の日に色々と頭と体を起動するのに時間かかりますよね。大変だぁ。俺の頭って不思議だぁ。