行方不明の象を探して。その113。

新しいの出たんでよろしく。

 

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「これええお酒やわーめっちゃええやん」

 

「おいしいやーん。おいしいゆーても香りやけどな。主に」

 

「ほんまや。これもおいしいでえ。香りやけどな」

 

「すっごいなぁ雅くん、こんな技があったんや。天才やな」

 

「かっこいー。んでも技て何?」

 

「でもな、雅くん、そんなに酒用意したらあかんやん。えらいことになるで。香りやけどな」

 

「だいたい麻里、さっきまでしゃべられへんくらい下町のナポレオン飲んでたんちゃうんか?急に元気になって。あれメチルアルコールみたいな味せぇへん?」

 

「そうや。思い出したやん。沈黙は金なり。うう……。メチルアルコールって失明するやつ?」

 

「あ、大島、いらんこと言いなら。せっかく忘れてたのに。カストリやな。下町のナポレオンはカストリちゃうけどな」

 

「麻里ちゃん、考えたらあかんて。食べようよ、飲もうよ、ほら、おいしいもんいっぱいやし。おいしいもん食べたら幸せやで。お酒飲んでも幸せやで。香りやけどな」

 

「おれがちゃんと送っていったるから心ゆくまで食べとき。香りやけどな。あれたんな、酔うた時とかに燻製なんかがおいしくなるのもあれやんな、香りやんな。強化されんねん。香りが。感じ方がな。味覚やな。香りて味覚か?」

 

「やあ、久しぶりジェントルメン」

 

「お?来たんか。ええやん」

 

突然画面から背中が消える。カメラが接近してその中でオナラの連発。「あっ、出る。出ちゃいます」って言って期待が高まって、ブブブブブブーッ。

 

「聞こえてるだけマシやで。ホンマ」

 

(さあこれが君の大好きな象さんのうんこだよ。何で目をそむけるの?君が象さん好きだっていうのはウソなの?好きだったら匂いだって嗅げるだろ?それじゃあわからないよ。さぁもっと顔を近づけて)

 

「あんたが話しかけるのっていつも質問をはぐらかすためやん」

 

「麻里ちゃんこれもおいしいねんで。おいしいゆうても香りやけどな。あとこっちの酒も。あと象さんのうんこ捨てといてくれる?換気したほうがええな」

 

「麻里ちゃんにもあの調子なんやろ。ああいうふうに言われるのってどうなん?そうやって話避けるん?象のうんこはええよ。放っておいても」

 

(例えば普通にウンコを撮るとこんなウンコみたいな汚いものをわざわざ撮っていますというように見えてしまう。非日常的なウンコです。逆にスカトロマニアがウンコを撮ると今度はウンコへの愛が溢れすぎる。ウンコは素晴らしいというメッセージが溢れている。こういう対象への「切り取り」が愛として視聴者に伝わる。その「切り取り」に必死なのに全く上手くいっていないようだ。スカトロマニアにでもなるべきか。まずはウンコを食べてみるとか。認識を変えないといけない。ウンコでコペルニクス的転回を)

 

「ええよな。俺が毎日迎えられるからな。待ってるように見えるから」

 

「他人扱いせんといて」

 

「いや、そんなんよりタチ悪いで。自分」

 

「そんなん言うてもあれやんな、笑わへんで。からかってるん?絡み酒やんけ」

 

「そしたらこっちも笑わんわ。あと俺、酔うてへんし」

 

「別に。俺はもてへんからな。そんなこと一回言われてみたいわあ」

 

「ああ、中尾?雅と買い物に行った。酒しかなくなったから。元々ほとんど酒しかないようなもんやけどな」

 

「でもこういう待ち方じゃないよな。家行くとか一緒にビールを飲むとかっていうことじゃなくて。どんな気持ち?期待してるとか怖がってるとか?楽しく期待しながらか、それとも怖がりながらなのか?ビールを一緒に飲むとか訪問してくるってことじゃないよな」

 

「今後そういうのやめる感じなん?」

 

「必要悪とは思ってたけどな、コピーしててもつまらんのよ」

 

「そういう気持ちが起こったらもうアウトやんな。気にせんでもいいで。それは酔うたときのねたやから」

 

「そうなん?」

 

「普通の話より意思疎通できてる気がするよな。やっぱきてよかったわ」

 

「酒飲むと余計にね。ほんまそう思うんやからええやん。卵やの、卵。柔らかい、水みたいなのに包まれてる感じがせえへん?声とかも水の中でしゃべってるみたいにこもって聞こえるし、感覚とかも鈍くなるやん。触ってもあんまり感じへんくって。きっと卵の中二おるのってこんな感じなんやろうなあって思うねん。鳥の卵じゃなくておたまじゃくしの卵とかそういうのやで」

 

「言葉の奴隷ちゃうからな。それはめっちゃええよな。元々そういう風になるんにしても方法が違うもんな。その方がええよ。絶対」

 

「革命の志を抱いて生きるって大変やからな。あんま金金言いたないけどさ、金無くなったら終わりやもんな。革命家って乞食やし同時に貴族でもあるもんな。主導権を握らなあかんよな。でもなんかあれやん、めっちゃ世間との相性とか良くないのよね。いつの時代もそうやと思うんやけど」

 

「君こそそういう性格だと考えるほうがええと思うで。君がわいのほうに来へんのはわいを呼びよせる力が自分には備わっとるって知っとるからやねん。そうして君がその力を使っても別に不都合なことにはならへん。いつでもまたつこたらええわ。だってせやろう?」


「いつもなんや沈黙や災厄のエクリチュールやー言うて創作後回しにしてるもんな自分」

 

「咲ちゃん俺のことどう思ってるんやろ」

 

「え?好きなん?」

 

「おお。結構前からな。前ゆうたよな?」

 

「覚えてないわ」

 

「なんでそんなカッコつけるん?」

 

「何が?」

 

「普通に言うたらええやん。なんかキムタクっぽいねん。お前。動きとか言い方がイケメン俳優がベタな演技してるときみたいな感じやねん」

 

「なんやねんそれ。ようわからん」

 

「そりゃそうだろうよ。そんなもんに興味ないもん」

 

「君は言葉の力を過大評価し過ぎてない?なんか絶対やと思ってるよな?行き過ぎるとロマンと陶酔になるよ。あと排他的になる。自分リベラルやんな?アカンで、そういうの」

 

「だけどにわとりの卵とはいうけどひよこの卵ってあんまりいわへんでしょう?」

 

「すいません。おたまじゃくしだから悪いってことじゃなくて単純に気になって。僕はあんまり気持ちよく酔わへんからあんまりわからへんなあ。頭とか痛くなるからうーん、まだ鳥の卵のほうが近いかなあ」

 

「言葉の力を危険視してるならそれでええよ。沈黙した相互理解というユートピア」

 

「自分もそういうところあるよな。さっきイケメン俳優のベタな演技とか言うてたのに言葉酔いしてるような言葉遣いするよな。インテリぶってるん?」

 

「なんかあれやんな、自分、関西弁おかしいな」

 

「だって生まれ関東やもん。ネイティヴちゃうよ」

 

「そうなん?」

 

「うん」

 

「エゴの問題じゃないよな。自分の意のままに操りたい!とかそんなんちゃうやろ自分?」

 

「ちゃうわ。そんなん一番アカンやん。偶然や偶然。そんなん誰にでもあるやん。たまに」

 

「精神的サディズムやんな。それ。勝手に自分で言うて激高してんねんな。アホやん」

 

「失敗って、ぼくですか」