「なんかコンビニとかさあ、あの立ってくれへん?」
「あのあれやわ、あの普通にコンビニ、コンビニで何か買って、オッケー、そうそう、コンビニで買って、なんかコンビニで買ってさ、な。なんかノリ良さそうやったから受けねらいで言っただけ。そう、そういうノリが好きだから」
「渡辺はやばいよ。さすがにヤバすぎ。また別」
「そうそうそうあれとか、さあ、なんかあの別にホテル行くとかそんなんじゃないんやけど、ホテル街どっちがどっちなんホテルガイド?」
「ほんま詳しくなくて調べてくれへん?うん、結構歩いても大丈夫。 全然よ。 明後日以降。 ええよ。 お願いで調べてもいい? よくない?」
「ね。やばいやばい」
「ちょっとついて行かない方が良かったかね。絶対楽しませんで。まあ本当。
「身長何センチ?」
「それ、ディスってるやろ?チビって言いたい?まじで161」
「めちゃくちゃ近い」
「マジ160。ガチ」
彼は座った。そして女の子を眺めた。しばらくの間、質問攻めにした。まるで他の男たちの動きを追うためにそこへ来たかのように。そして何しろ人混みが邪魔で、ずっと遠くまでは見通せないのに人混みをじりじりと進んでいく人々の体に執拗に目を据えていた。
電車の座席に座っていつもの朝のように勤めに出かける彼の目の前に五分とたたぬうち三度も同じポスターがあらわれた。木にはとめなかったがもっと数多くあらわれたに違いない。ともかくそのポスターは彼の内心をかすめたのだ。でも電車から降りるとぽスタ^をめにとめたことなどきれいさっぱり忘れてしまった。
昔の作家はよかった。とにかく出版社に売れればどんな形であれ本になった。自分で手に取ることができる。どんなにか幸せな気分だろう。俺は過去の作家が羨ましくてならない。家を見渡しても目に映るものすべてがよそよそしく、通行人に当たるように柱の角に体をぶつけた。
いや、違う。あれは通行人だ。彼女はホテルを調べてくれたの?身長が160やからアカンのか。駅の構内は人で溢れかえっているのに俺だけジロジロと見られている気がした。ベランダに面した窓は半開きでレースのカーテンが揺れている。透けて見える網戸の細い格子が棚に見え、閉じ込められているようにすら感じた。
「ね、それそう、その理由いいね。ちょっと暑いから涼しいとこ行こうか。その流れいい。採用」
「チャラいよ」
「そう思ってから上手と思った上手と思った」
「そういうやり方あるのね」
「ちょっとやり直していい?暑いな、ほんと暑いよね。ちょっと暑いね。ああ、ちょうど涼しいとこ発見、みたいな感じで、目の前に来たときに使うわ、ちょっと暑いな、部屋があるなとか。あ、暑いなー暑くなってきたあー涼しいサービスやってるみたいな?クーラーガンガンらしい。残念なことに空いてます。 なに言ってるのかなわかんないですね、ちょっと」
「よし、まだ時間あるでしょ?じゃあ、散歩散歩散歩……に見せかけて連れて行く」
「どこに」
「バレンシアガ」
「アハハ」
「映画好きってことで?」
「で、共通共通映画好きだから映画見る?あの寝転がりながら。
「どういうことですか?」
「新型映画館。 最新の映画はありません。最新の映画ありません」
「いやぁーだぁー映画館行こうよぉ」
「すごい清純な所に行きます」
「ちょっとーいやな予感しかしないんだけどぉー」
「こいつだけ不純。こいつだけだから大丈夫だよ。もうね、受付のおばちゃんが出迎えてくれる。休憩ですかって言われて。休憩だって」
「ちょっと待って。待ってぇどこに行くか、どこに行くかあたしわかったんだけど」
「それは彼女もねー、結婚詐欺師っていうわ」
「ちょっと手が早いのかな、手が早いって。ちょっとね。ローソン寄る?」
「あーいやな予感しかしないよね……」
「ガリガリ君食べる?イルミネーションがきれいだなー」
「こんな昼間っから。フフフ。マジでサイテー」
「吸い込まれる吸い込まれる」
「死なない」
「強そうだもんね」
「生命力たかそうだもんね」
「ちょっとー失礼。ない。
「いやいや、もうゴキブリなんて一言も言ってないですよ。一言も、ゴキブリは言ってないよゴキブリいたら全然。 ゴキブリいいじゃん。ゴキブリはカッコイイよ、カッコイイまだ時間あるでしょ?」