行方不明の象を探して。その255。

デンタタはしばらく迷ってから言った。

 

「今ここで口を広げて読み上げるのは、さすがに恥ずかしくてできません。まだ朝ですし。でも歌集みたいなのを一冊出していますので、もし本当に読みたいのなら、あとで送って差し上げます。あなたの名前とここの住所を教えていただけますか?」

 

メモ用紙に名前と住所を書いて渡すと、彼はそれを眺め、四つ折りにたたんで、オーバーコートのポケットにしまった。淡いピンクの、かなりビラビラとしたオーバーコートだった。丸い襟のところに小陰唇の形をした金色のブローチがついていた。それが南向きの窓から差し込む日の光にきらりと光ったことを覚えている。僕は女性器にそこまで造詣が深いわけではないが、女性器モチーフの小物は昔から好きなのだ。

 

デンタタが好きな文学のアレゴリー。

 

儚い声、一つのヘルメット、今頃は暗くて目が見えない。瞼が開きかけ、再び重い音が聞こえ、橋の肋骨がばらばらになり、今にもこの火が消えそうになった。霧が前方に浮かんでいる、そしてまた行く、ゆっくり、もう一度、下へ。地平線の線。昼間の光、その中で強くなっていくものと、残されたもの、すべてが入り込んでくる。

 

一週間後に彼の「歌集」が郵便で送られてきた。正直なところ、そんなものが本当に僕の手元に届くとは、ほとんど期待していなかった。人でも生物かも分からない得体のしれない存歳が歌集を出しているなんて冗談だと思っていたので、だからある朝、アパートの郵便受けにその郵便が差し込めているのを目にしたとき、少なからず驚かされた。

 

歌集のタイトルは「人間でも怪物でもなく」、作者の名前はただ「デンタタ」と記されていた。デンタタというのは言わばその種の学名のようなもので、個体を識別するための名はないのかと正直思ったのだが、デンタタがデンタタならそれもまたデンタタなのだろうと思って妙に納得した。もしかしたらペンネームだったかもしれないが、ペンネームにその種の名前を使うというのも不自然じゃないかと思った。それは仮に歌集を出していて、ペンネームを「人間」とするようなものであるからだ。

 

アレゴリー。

 

それは彼らの声だ、それは体のうち、少し飲むことを求めて周りに回すサーチライトのような洪水だ。その体を完全にもみくちゃにし、最後から少しばかり身を乗り出す。僕が無人の空家であるのと同じように、家は、僕が入り、登るために押す場所を作り、簡単に押し上げられる。掌で。自分のためにここに腰を下ろした。彼らは影が下から来る、汚れのように波紋上の大きな群衆と共に彼はまだここにあるか、彼は姦通することを厭わない時に使う空のベッドは同じ形からぶら下がって震えて、同じ顔がいつもそこに待っていた。劇場の周りの人々も止まらない。そして、おそらく夜、彼らはここに集まるだけ今、僕は眠りに落ちる知っている優しい顔を彼らに見せた後に、このページで開いて、ゲートの後ろの錆びたシンバルによって閉められる。

 

彼らは同様にそれらを結合洗浄し、1つになっている。あなたは気にしない、彼らはその中に皿をしがみつく、あなたの胸に暗く落ちるまで、彼らは持っていないと歌っています。歌っていた穴を見てみるがいい。そして、何か自分の言葉で、背中を、押し上げるように、本当に、描かれた体と彼女はまだすべての周りに立っているものとして、そこで、それらの書物の間であなたと、それらのそれらのために今のところは、ちょっと待って、一旦リリース。

 

彼らがどこから来ているのか分かっていないようだ。結合洗浄と僕は言った。これは秘儀の一つだ。勝手に起こる。起こるのを待つしかないから、それに頼ってばかりもいられない。自分は何も掌握していないしコントロールもできない。そのような内部の登山。花の旅団の構成員は数千人であった。幻想の背後に乾燥し、その乾ききった拡張によってのみ、日々をやっていくということが、彼らが辿った道だった。しかし数千人単位なので、全ての構成員がそうだったかまでは分からない。

 

風の噂で彼の名前を何度か耳にしたことがあったはずだが、どうしても思い出せなかった。ジョン・マン次郎だったような気もするが、見た目からして日系人という感じでもないし、ニッポニア的生態系に属する謎の生物というよりかは純日本的な生態系だと思うので、恐らくジョンではないと思う。ただ風の噂で「デンタタ」と呼ばれていなかったことだけは確かだ。そうなると彼の本名を知らないということになる。

 

風俗的なピンク封筒には差出人の住所も名前を書かれておらず、手紙もカードも同封されていなかった。白い網タイツというよりチャーシューを巻くやつみたいなもので綴じられた薄っぺらな歌集が一冊、無言のうちに収められていただけだ。

 

ガリ版刷りなんかではなく、一応きれいに活字印刷されたもので、紙も分厚く上質のものだった。おそらく作者が印刷されたページを順番に重ね、そこに厚紙の表紙を付け、一冊一冊丁寧に糸で綴じて本の形にしたのだろう。製本の費用を節約するために。なんと人間的な行為なのだろうか。もし彼がデンタタではなかったら、人間的に尊敬できる人物なのかもしれない。

 

彼が一人黙々と、そういう手内職のような作業をしているところを僕は想像してみようとしたが、あまりに異様な光景のために気が狂いそうになったのですぐにやめた。ただそこに共感覚のようなものがあり、そのイメージは強烈な黄色だった。狂うことと黄色い色というのは凄く親和性があるものだ。

 

ニコちゃんピースマークの面を被った精神病棟の患者服を着た男がチェーンソーを持って追いかけてくるイメージなども、ピースマークの面の色が黄色いから恐ろしいのであって、あからさまに恐ろしそうなショッキングピンクやレッドだったら、滑稽でそこまで怖くないだろう。隣町のふもとの狂い火村の住人が体内に宿している狂い日も黄色い火だ。とにかく黄色は恐ろしい色だ。

 

最初のページには28という番号がナンバリングのスタンプで捺してあったのだが、イエローのマッドなイメージのことを考えていたら、それが隔離精神病棟の患者番号28番を思い起こさせた。ある種の精神病患者なので差別にはならないだろう。差別は良くないというが、差別主義者だろうか?こうなったらもうリベラルチックにデンタタを人間と認めてはどうかとすら思った。

 

そのことに思い悩み過ぎた日は眠れなくて寝酒を多めに飲んだ。次の日、刺すような下腹部の痛みがあり、一日中下痢をしていた。吐けばいいのに消化してしまったものだから、消化器官が爛れたのだろう。爛れるというイメージも限りなくイエローに近いレッドという感じがする。

 

しかし全部で一体何冊が作られたのだろう?値段はどこにも書かれていなかった。そんなものはもともとなかったのかもしれない。その歌集のページをすぐには開かなかった。歌集に歯が生えていて本を開いたとたんに噛みついてくる類の怖さを感じたからね。だからしばらく机の上に置きっぱーにして、ときどきちらちらと表紙を眺めていた。だったら読めばいいのにって思わない?不思議だよね。人間って。

 

ただね、歌集に興味がなかったわけではなくて、さっき言った歌集に歯が生えてるから読むのが怖いとかいうのは嘘だけど、カジュアルにパラパラ読む気が起きなかったというか、それなりの心の準備のようなものが必要とされると感じたからだ。一種の礼儀みたいなものかもしれない。歌集を手に取ってページを開いたのは、その週末の夕方だった。もちろん、本に歯が生えているとか、そういう類の安易なギミックはなかったんだけど。歌集には全部で42首の短歌が収録されていた。

 

アレゴリー。

 

目が行く前に手を伸ばし、体が詰まった時、開け過ぎた口が眠りを誘うので、口をロックする。物語の終焉は流行の日暮れだった。鱗の身体で眠っている沈黙は溺れていて。苦い流出をこぼす。一滴も無駄にせずに文章化しよう。自分を文章の抽出機のように考えて、人生の問題を考えることをやめる。ある意味、諦める。長い夜明けをヴァイブスを収集し、他の動かない役に立たないものを根こそぎ剥いだ後にまた始める。

 

始まりのように透けて見える彼方を紡ぐ。文字の残像が傷跡のメロディーに、木がまたたき、その干からびた光の中に、皺くちゃな犬たちに寄りかかり、ミミズの息がかかった地面の中でざわめく。それらはざわめきながら深く頭を貫通し、自分の手で、あなたの犠牲に身もだえ、難破船の音と厚さで荒れ果てたもののすべて、今、この独自のささやきに凍り付いた言葉の乾いた音と、開いているところから悲鳴が上げる。

 

ほんの一握りの、まだ息のある、脳と骨の躁病のあなたは、そこに断片的な波のモチーフの和音を聞けば、まずは目から絶望していくことになるだろう。それは重く、裏切り、その獣のように切り裂かれた胸骨に、鬼のように、ほとんど不思議に思うこともなく、ざわめき、断片が痙攣している。でもそれがやりたかったことでしょう?勝手にそうなってくれれば楽だけど、そうはならないからそれを促してやる。

 

この感覚を捨て去り、漂う悦びと不自由な者はまだ大荒れの海の中を、溺れながらも、落ち着き、飽くなき抱擁までに 閉じた、行く手は蛇に切られ他の者は奪われ輝く口と心は焼かれ熱を帯びて、そこに、痛みが、時間が、露が、羽根が、その月の体の盛り上がりに上昇する。

 

刃物はスポンジに、戦いの喜びの涙は、心の口底である、世界の男の女のために、絶望。今、拝まれた脚はどこに、いや、あるのは椀の膜が伸びている中、傷つき、それでも、悪夢の膨らみは穢れた触手を下ろし、困難はあの行き場のない深淵を、それはまだ灰に覆われて、肉感を上昇させるだろう。その痛みから、何もない、壁がある、時間がある、静脈がある、夜もなく、燃えるような起伏がある、唇がある、頭蓋骨の激怒したすべての叫びがある。

 

フックに降りてくると認識せずに、かろうじてヒーローの悲鳴から保つような、そのために"崖っぷち "と呼ばれることもある。無傷の深さと、それをさまよい、何も魂は、柔らかい、無言の下水道の犠牲者の中にカラカラに乾燥しながら、それでも、プラスチック製の唾液はちょうど骨と音のバランスが良いらしい。音、ガラスの共鳴、そしてゆっくりと割れた血。

 

くぐもった酔っぱらいの、この平和な、まっすぐなその骨に、その体への畑のに僕は息をし、僕の口にあなたの冬を湿らせ、海を降らせる。葉っぱを掘り起こし、渇きの瞬間を探る、あなたの中に。それが分かると彼らはささやきながら世界を取り戻し、降りていった。この震えを歩こう、そして、引き裂かれた寝たきりの中で、あなたは崩れ落ち、手足が凍りつき、唇が果てしなく広がる今、根は喪に服す。