行方不明の象を探して。その254。

初めてヴァギナ・デンタタと出会った話なんかも、暇な人なら付き合ってくれるだろう。しかしあらゆるものは己に似たものしか生まぬという、この自然の法には、ついにまた逆らうことができなかった。だとすればこの乏しい一向に教養のない才能の無い人間が、あたかもあらゆる不便がはばをきかせ、あらゆるわびしい物音の住処たる牢獄のうちで生まれたもののような、干からびてやせ細り取り留めもない、しかも種々雑多な、いまだかつて誰一人思いついたことのない思考にみちたヴァギナ・デンタタにも倣うべき物語以外に、いったい何を生むことができたのだろうか?

 

静謐、落ち着いた境地、田園の楽しさ、良い天気、泉のせせらぎ、精神のやすらぎ、こういうものこそがいかに不妊の詩の女神も豊穣に変え、この世を驚異と喚起で満たす数々の出産を世にも足らしめるのに大いにあずかって力のあるものである。どうかすると父親がみじんも可愛げのないヴァギナ・デンタタを持ちながら、子供の愛に盲目的になって、子供の欠点が見えないばかりか、あろうことか欠点を頭の良さとも美点ろも思い込んで、デンタタ友達に向かって再幾何愛嬌の如く自慢げに吹聴に及ぶこともまれではない。再幾何愛嬌ってどう読むんでしょう?分からないね。音読できないのに書けるなんてエクリチュールは不思議だらけだね!

 

そんな不思議だらけのヴァギナ・デンタタは文芸を愛好していた。もうすでに作家にもなっていた。つまり方々の出版社は彼が寄稿する記事を快く受け取って発表してくれるからである。彼の告白するところによるとその野心と言うのは小説家になることであるのだが、それは別にこうした正体不明な職業が有利だからというわけではなく、むしろ人間を描写しさまざまな性格を創造し、近代の世相を表現しようという目的のためなのである。デンタタが愛好する文芸のアレゴリー。

 

僕は立ち上がり、再び歩き出し、彼は僕に言っていたように、僕の心にほとんどの時間の間を通過して、話を聞くために、壁の後ろにつながる廃墟の砦とそこにトンネル、その後、あの天窓、暗闇の中で開いている穴、そこに彼は横に降りて中に入る。二重に曲がって、半端な袖に彼の心を置けば、雑音がしても、彼らは穴の中にそれらを下げるだろう。

 

僕はズボンの裾につまずくと残りはそれらを踏んで、そして、彼はあなたが上に行く時に、突然のひらひらを開きながら着ていた。そして川の流れのような音がして、自分たちの名前を呼びながら、今、穴の中に入って、また戻ると言っている人たちを、秘密でもなんでもなく、前に押しやっていた。

 

そして、多くの人が海に落ちるか、トラックで海まで連れて行くのが見えた。その辺にいるとね、すぐに、あなたはダメだってのを確認して、あなたは彼の鼻の下に血の見て、本の汚れが鼻血だったことに気がつく。僕はトイレを探し、戻ってきた彼に僕の服を残して、そして、夜明け前に誰か来てくれと、別れを告げていた。そして、キットバッグからブーツを一足取り出し、そこに履かせた。夜は黄色の帯で2つに切断され、残りの人々は遠くページを開くと、あちこちが空白になっているということに気がついて、いくつかのメモが、どこか真ん中の、枝を切った丸太の上のその隙間から出てきて、恐らくはそれらがページの空白を埋めるはずのものらしい。

 

実際はかなり長い間彷徨い、それからリストを持って歩いて、戸口に立った後、彼らがページの空白のために来るとすぐに、文章は出口が見つからないまま、長い時間、黒床に広がっていた。そして、壁が彼の側に横たわって、彼の上に毛布が来たのを見て、僕は失語にあったために回復するために、その後座っていた。

 

この訪問客は立派な大傑作を作ろうと言う真剣な希望で張り切っていた。ときおり輝かしい栄光でも見ているのだろうか、彼の小陰唇は軽く開かれ、大陰唇は広がるのであった。注意深くヴァギナ・デンタタを観察した。彼を打ち眺めてからこう言った。

 

「君は傑作を一つ、豪い小説を本当の小説を一つ書きたいと思うんですね?それじゃまず第一に人間になりなさいよ。そう、顔からマン汁垂らしてる場合じゃないんですよ。将来生まれる君の創作はヴァギナから生まれ出るわけではないでしょう?何かを書くという行為は人間の特権的な行為です。だからあなたは最初に人間にならなければいけない。だって君は立派な小説を書きたいって言うんでしょう?それならどこかのコンビニとかでアルバイトでもしてみなさいよ。いや、労働嫌いで仕事してない身ですがね、よござんすか、あなたと違って人間なんですよ。だから色々と書くことができる。ヴァギナ・デンタタである君は何かを書けない。そういうことなんです。ささやかな仕事をしながら世界を駆け回り、貧乏も我慢しなさい。急いで筆を下ろさせようとするのはおよしなさい。童貞キラーなんていってチンポコを噛みちぎったらそりゃあなたね、殺人ですよ。だから苦しみも試練も受け入れなさい。幾百といる多くの人たちを見習いなさいよ。彼らは人間ですよ。歯の生えたヴァギナじゃない。多くの人たちを見習いなさいという場合、その意味は人々によって不幸におとしいれられたり、また人々を幸福にするために不幸になったりするのを拒むな、という意味なんです。君に対して善いことあるいは悪いことをして、その結果君の本質に何かの刻印を残した人間だけを描写しなさい。君は立派な小説を作りたいというのでしょう?それじゃ君!まず手始めにそんなことをあまり考え詰めないようにしなさいよ。眼や耳や鼻や口を開けて置くのだ。ヴァギナを開くということではない。心を開けっぱなしにして待ちたなさいな」

 

ヴァギナ・デンタタの話などして何の役に立つのか?こんな不思議なほど人間ではないことは明らかなのに、しかしあらゆる点で逆説的であるがために、通行人を面食らわせるどころか、トラウマを残してしまうかもしれない一人のヴァギナ・デンタタを人間にしようだなんて無謀なことかと思われるかもしれない。いや、確かに実際に無謀を極めることだと思う。ヴァギナ・デンタタの教訓を消化しきれるくらいの生活は十分にしてきたと自負している。

 

だが全く面食らわせるのがヴァギナ・デンタタだ。そんな彼はちんぽを食らうわけで、この人間かもしくは怪物について、その生活、その作品、その生涯、その栄光についてわれわれが知ってることは全部、どれもこれもわれわれを狼狽させるために出来上がっているように思われる。

 

確かにこうしたわけがあればこそ、いやヴァギナ・デンタタの境遇が理解しがたいという理由がまさにあればこそ、彼の教訓は結局のところ、こういう理由があってはじめて、曖昧ではない確実な人間という存在を承認できるのである。

 

僕らは一旦、こういうことで納得して、お湯を沸かしてインスタント・コーヒーを飲み、トーストを焼いて食べた。澄んだ空には雲がひとつなく、あさのひかりがとても眩しく、気怠かった。彼はバターを塗ったペニス状のウィンナーを齧りながら普段は何をしているのかと尋ねた。特になにもしていないと言った。

 

そんなことよりヴァギナが小説家になりたいなんておかしいことだと思わないのかと彼に詰め寄った。彼は特にこだわりがあるわけではなかったようだ。否定もしなければ肯定もしない、曖昧とはまさにヴァギナのようなやつのためにある言葉なのかもしれない。

 

昼間の明るい光の中で、ヴァギナの歯型がくっきりとついたタオルを目にするのはなんだか不気味なものだった。よほど強く噛みしめたのだろう。昼の光の中で見る彼自身も、ずいぶんそぐわない感じがした。目の前にしているあまり血色の良くない、赤貝というよりかは体温が下がってしまったときの紫色の唇のような小陰唇の小柄なデンタタが、窓から差し込む冬の月明かりの中でまごまごしながら小説家になりたいと語っていた同じデンタタだとはとても思えなかった。

 

「僕は今、短歌を作っているんです」

 

とデンタタはほとんど唐突に言った。

 

「短歌?」

 

「短歌って知ってますよね?」

 

「もちろん。ヴァギナだけに舐めてんのかこのオメコ野郎。ん?でも考えてみたら実際に短歌を作っている人に会ったのは初めてだ。まぁお前が人かどうかは分からんが」

 

デンタタは楽しそうに潮を吹きながら笑った。

 

「笑うと潮吹くのか?」

 

と訊いた。

 

「こういうものが世の中にいるということをちゃんと知ってもらいたい所存でございます」

 

そしてデンタタは肩を小さくすぼめた。

 

「短歌というのは一人で作れるものですよ。バスケットボールじゃないわけですから」

 

「そういえばバスケットケースが人を食うみたいなB級ホラー映画があったけど、それにかけてバスケットボールなのか?」

 

「そういうつもりではないのですが・・・」

 

「そりゃすまん。で、どんな短歌なのだい?」

 

「聞きたいですか?」

 

「お前、ふざけんなよ。聞きたいから聞いてるわけだろうが。それを聞きたいとは何事だこの人間擬きめ。祝福が褪せているからお前は褪せ人のようだけど、人でもないから、ヤリマンリングってところだな。その辺にあるルーンじゃ修復できやしないよ」

 

「本当ですか?自分に話を合わせているだけじゃなくて?」

 

「また下ネタか。貝合わせとかって意味だろうそれ?」

 

それは嘘ではなかった。つい数時間前に小説家になりたいと言っていたやつが、いったいどんな短歌を詠むのか、けっこう真剣に知りたかったのだ。