行方不明の象を探して。その249。

ケヴィン・サンダーソンの何の曲かは忘れましたが「この曲はただ15分でできたもので何かをやろうとかどんなものを作ろうとかそんなことを考える前にできた曲だ」なんてコメントがありましてこれこそまさにテクノなんですね。

 

ギターウルフのセイジさんの美学に似ているところがあります。練習とかしないで革ジャン着てギターだけ持ってスタジオに入って直にシールドをアンプに突っ込んで一発録り!みたいな。そういうRawさです。作るRawさではなく素のRawさです。

 

303クローンとエフェクターを繋ぐシールドはギターを繋ぐようなシールドを使っています。ギターは弾けないけどロックのつもりでアシッドやっていますから。アシッドで食うつもりがアシッドに喰われてしまう。そんなことがないように。アシッドアシッドアシッドってジェファーソンみたいに言うのはいいけれどまた急に興味が変わって別なことを言い出すのが私。来月どうなってるか分かりません。でも大体やることやり尽くしたからアシッドに食わせてもらうぐらいのつもりでスマイリーを神と崇め崇拝するしかなさそうです。他に生きていく術がないのです。何のスキルもありませんからね。楽器は唯一303を演奏できます。あとターンテーブルを少々。

 

潰しが効かないごく潰しの俺を親は相当心配しておるようです。だからお母さんに中原中也みたいに「お母さん、私はアシッドの天才です。心配しないでください。お金を送ってください」とかって言い続けたいです。アシッド中也。ビヨーンミニョーンビヨビヨーンっていう詩は俺のオリジナルです。

 

サーカスって曲があるぐらいですからね。あれは中也とアルマーニがスピリチュアルな次元で繋がってドフロアがリミックスしたことでやたら売れた曲です。正しくはサーカスベルズですが細かいことは気にすんな。トランキーロ。あっせんなよ。LSD密輸を斡旋するなよ。ここは俺のシマだ。

 

ここのところで一つ深呼吸をしよう。

 

コンビニの店内。彼は一人で列を切り開いた。この同じ通路を通って。同じようにさびれた棚を通って。籠・エンプティ・棚。ツナおにぎり120円。見渡す限り空っぽの棚。女は先ほどと同じように突然笑う。

 

狭い店内へ踏み込んだつきあたりにはどういうわけか太い薪の束がひとの背ぐらい高く積み上げられていて、薄暗い通路へ向かって人が一人ようやく通れるほどの通路しか残っていなかった。しんと静まり返ったこのコンビニの内部では軋んだ響きはどこか隠れた地下から発せられる一つの鋭い叫びほどに思われた。あたりはしんとしていた。狭いコンビニのどの場所からも物音ひとつ聞こえてこなかった。

 

あなたの方に来たのです。でも、少し離れたところで立ち止まりました。そしてあなたを見たあなたは今、こちらの方を向いていた。それなのに、あなたはこちらのことを見ていないようでした。あなたを見ていた。あなたは動かなかった。あなたがどれだけリアルに見えるか話しましたね。でもあなたはただ微笑んだだけ。

 

白いラジカセ。細長い直方体で、中央にカセットプレーヤーがあり、その両側に一つずつ黒い金網が張られたスピーカーがある。上部にいくつかのスイッチが並んでおり、高山の人差し指がその一つを押す。

 

テーブルの上でラジカセから音楽が流れ出す。Dope過ぎる90’s Dub。Rocker’s Hi-Fi。ブームボックス自体が振動してガタガタ言う音のほうが大きく聞こえる。俺は椅子に座っていて、テーブルに手を置いていたが、その掌に低く力強いリズムが伝わる。

 

高山が踊る。リズムに合わせて、身体をくねらせ、腕を振る。ダウンテンポでこういう踊り方ができるやつは相当クラブに行ってるに違いない。グルーヴで踊ることに慣れた動きをしている。窓からの自然光と蠟燭の火が、踊る影を壁につくる。そのそばに別の小さな影が現れ、踊る。

 

それに比べて愛子はでたらめに身体を揺すっている。音楽に声は消されているが、笑っている。二人とも楽しそうだ。踊りながら、愛子がこちらを手招きする。俺も踊りへ加わった。

 

高山は何か危険を察知したのだろう。牛乳が並んでいる棚から少しだけ距離を置いた。そして、愛子が指定した立ち位置は息を呑むような何かだった。コンビニでしか聞こえない音が鳴り響いた。彼らはちょうど来たところです。列は水平線に伸びている。

 

アイスティのSサイズを一つ。はい、レモンとミルクとどちらがよろしいですか?ガムシロップだけで。はい、かしこまりました、154円になります、すいません、じゃあこのままで失礼します。はい、お待たせしました。はい、千と五円お預かりします。851円のおかえしとなります、ありがとうございます、いらっしゃいませ、はい、ご注文おきまりでしたらどうぞ。いらっしゃいませ。

 

彼女は口をつぐむ。光線がなおも変わっていく。彼は顔をあげて彼女が示したばかりのものを眺める。彼は奥の方から南に向けて歩く男が戻りかかっており、レジに並ぶ客の真ん中に進み、こちらへやってくるのを見る。彼の足の運び方は規則正しい。光線の変化のように。偶発事項。またも光線。あれはまさしく光だ。それは変化してそれから急にもはや変わらなくなる。広がってあたりを照らし、それからそのまま輝きを与えながら一定してしまう。旅人が言う。「象」と。

 

網戸を細く開けてみる。月の光が外をほのかに照らしている。背の高い草が陰となって、星の散らばる青みがかった夜空の中へ、刺とげのように突き出している。かすかに虫の鳴き声がする。しかし、それ以上に蛙の声の方が大きい。網戸を閉ざし、振り返る。蛙は鳴き続けている。俺は近くの椅子の背もたれに手をかける。しかし、座るつもりはない。

 

ところで彼は何をしてるんだ?彼は彼らのものではない。たまたま通りかかっただけだ。特に目的もなくコンビニに入ることだってあるでしょう。それを考えれば彼らの行動はそれほど不条理に侵されてはいかない。でも、愛人と一緒なんだよね。愛人ではありません。彼は近くにいる。店が狭いから。今、二人は向き合っている。彼女の手は彼の唇を撫でている。近い。彼女が目をそらすのがわかる。

 

嫌なんです。遠すぎるから。長い間、あなたを待っていました。-でも、洗ったほうがいいんじゃない?彼はまた椅子に座り、グラスをじっと見つめながら、彼女にそれを突き出した。そうだ、氷をくれ。

 

何日かの間太陽が顔を出せば沼地や砂丘にしても違った色合いを帯びるだろう。そうすればわずかに綻びもしないうちに腐ってしまう色んな花がずいぶんと咲き誇っただろう。それらの花は輝かしい色合いをみせたかもしれないのだが、実際には我々は立ち絵偶然に鼻を見つけても色あせ緑色がかって錆色のしみがついた花瓶で満足しなければならない。

 

彼は待っていたのだ・・・。彼はジャケットのひだを引きずるように手を伸ばした、これを手に入れようとした、彼は待っていたんだと思う。彼女は、彼が無地の封筒を取り出したグラスに氷を置き、親指の端でその中の紙をざらざらさせた。夢の中で?また逃げるのか。どういう意味?言葉が通じない。

 

ガラス戸の横の壁に身を貼りつかせる。遠ざかった分だけ、蛙の声が小さくなる。俺は顔だけを壁から出し、網戸越しに外を見る。テラスの上がり口に、人の形をした黒い影があった。

 

息を殺し、影の動きを凝視する。影はひどくのろのろと、テラスへ上がってくる。その一歩目で、その人影が小柄な人物だと気づく。心当たりはない。二歩目で、息づかいが耳に入ってくる。力無く震えているようだ。そして三歩目で、赤い服が見えた。

 

赤い服の男。彼は立って眺めている。コンビニ、棚を。棚は空でおだやかであり、時の経過は緩慢である。砂の上に板を渡した道に男はいる。彼は赤い服以外は意外に地味な服装をしている。その顔立ちははっきりしている。彼の目は霞んでいる。彼は動かない。眺めている。眺めている男と棚の間の遠くの方を、レジすれすれに誰かが歩いている。もう一人の男。彼は地味な服装をしている。その顔立ちはこの距離でははっきりわからない。彼は歩いている。言って戻り行ってまた戻る。

 

その歩行距離はかなり長く常に一定した足取りである。眺めている男の右のほう、店内のどこかで光線の動きがある。左のほうには目を閉じている一人の女。彼女は腰をおろしている。歩く男は目の前の棚以外、何一つ眺めない。彼の歩き方は間断なく規則的で広範囲にわたる。目を閉じている女のところで三角形が閉ざされる。

 

彼女はレジの端のドアとの境界となっている壁にもたれて腰をおろしている。眺めている男はその女性と通路を歩く男のの間に位置している。むらのないゆるやかな足取りで間断なく歩いている男のため、三角形は変形改変されてゆくが、形が崩れてしまうようなことはない。その男は囚人のような規則的な歩き方をしている。

 

棚の壁と平行して通路のへりの排水溝よりもう少しレジの壁に近いところに、やはり一直線の道が商品の積もった通路の上をはしっている。今は姿をくらました客たちの足に踏み固められて、黄色みがかった灰色をしたこの道は、直角に交差する通りを相変わらず棚の正面にそい通路のこちらの端から向こうの端まで、その幅のおよそ3分の1のほどのところをはしって、遠ざかってゆく。その日の午後、我々は再び会った。

 

偶然でしょうか?わからない。そんなことはどうでもいいんです。あなたは視線を避け続けましたよね。まるで存在しないかのように。ピンヒールのブーツのせい。一瞬見とれましたね。でもあなたは足にはほとんど触れませんでしたね。もう一足持ってくるように言われたから。酷い言い訳。またそうやって返事もせず、ただ笑っているだけ。

 

ええとじゃあ。はい、ご注文をどうぞ。じゃあバニラシェイク。バニラシェイクを一つお願いします。かしこまりました。それではお会計のほう206円となります、少々お待ちくださいませ、大変お待たせいたしました、ではこちらとなります。はい。おそれいります、それではこちらになります、お会計のほう206円ちょうどいただきます。ありがとうございました。

 

誰も付き添い人のいない赤い伯母車の中で頭からシーツをかぶった赤ん坊が金切り声をあげて泣いている。銀色に光るギアチェンジ付きの自転車に乗った少年がわざとらしい高笑いを投げつけながら、寒さに頬を染めてその傍らを駆け抜ける。見れば結構、人通りもあるのだが、あまりにも焦点のはるかなおこの風景の中では人間のほうがかえって架空の映像のようだ。

 

あなたは話すのが好きではありませんでしたね。ある夜、あなたの部屋に行きました。まるで言葉に意味がないかのように。彼はそこから本を取り出し、ゆっくりとそこに腰を下ろして、淡々とページをめくる。頭上に張られた電球に手を伸ばすまで、動かずにページをめくる。