行方不明の象を探して。その227。

豆知識、一番ヤバいというか、消される可能性がある表現というのは「お金」を粗末に扱ったり、お金に関する価値観を無くしてしまうようなものは「消される」んだそうだ。誰もが疑わないお金の価値。それを疑い始めたら社会が崩壊する。簡単なことだね。スワロウテイルとかはどうなんだろうか?子供がお金を破るシーンがあるよね。KLFが火炎放射器で彼らのレコードの売り上げを焼き払ったのを思い出した。

 

生から死へ、死から生へと、指を引き寄せ、清らかな水に滑り込ませながら。反射光に照らされた空の廊下をさまよいながら、彼女は人の時間になる準備をした。その一方でどうなんだろう?お金の価値ってのは?仮に疑い出してみよう。そうすると例えばこれを誰が読んでいるのだろうか?とか、広く読まれたほうがいいな、というような当たり前の価値感すらも自明でなくなってしまうかもしれない。それで悩んで自殺する人もいるぐらいのトピックなのだが、案外、お金の価値だとか、その辺がグラつけば色んなものが崩壊するだろう。でもそれは良い崩壊だろう。無駄なことで悩まなくて済むようになる。

 

彼女は一歩一歩健三の後を追い、この状況に終止符を打つよう彼に懇願し、それでもなお自分の物語を続けようとした。すべての空間が抑制され、時間の呼び声に引き裂かれた孤独の中で、彼女は自分自身をさらけ出した。彼女は、また忘れたから続ける。良い崩壊の話だね。当たり前だと思っていたものが自明じゃなくなったとき人はどうなるだろう?ということに関心があるから自分は意図的に関心を無くしているのかもしれないが、そりゃ金があるほうがいいのでお金は欲しいけど、それを人生の軸にするかは別の話で、というかお金に振り回されていない話というのが現実でもフィクションでもないだろうか?っていうと大体お金だよね。もしかしたらお金の心配がなくなると意味がなくなる物語ってのが凄く多くあるのかもしれない。

 

そういう私の心に流れる無関心が、致命的な不在の浸透から来るものだと理解した上で、私は続ける、入院費、教育費、もしくは何か悪いことをやるための動機としての金、ヤクザのシノギ、でも金が無尽蔵にあったら、例えばRPGで金稼ぎが必要じゃなくなったり、頑張らなくてもレアアイテムが普通に手に入るRPGとなると、そもそものRPGが成立しなくなる可能性がある。醍醐味とまではいかないが、レアだの貨幣だの膨大に何かをこなした結果、得られるアイテムだの、そういうものがなくなったら何をやるのか?ってことになるだろう。

 

彼女は表現の不在、最も絶対的な無を求めている自分を認識した。彼女は太陽に向かって走り、ますます希薄になった意識を、ますます貪欲な深淵に投げ込んだ。この放心状態の中で、彼女は健三の周りを踊るように言葉を発し、彼を想像上の狼の罠に押し込み、彼女の舌は振動し、言葉なしで意味を表現し、そして突然、ほとんど聞き取れないほどの音節の奔流が空間に広がり、またお金の話を思い出した、彼女は何も言わなかったが、その沈黙はあまりにも意味深かったのだが、人が頑張らなくなるかもしれない?というか頑張る必要があるのだろうか?頑張ろうとするからしんどくなって自殺するんじゃないか?原因は金にある!とかこういうのがマズいんだってさ、彼女は後ろに跳び、恐ろしく眼を開き、話を止めた。

 

「いいえ、そうではありません。あなたの本当の姿はお金」

 

私たち一人一人がこれを経験し、引き裂かれ、長い眠りの回路に分散され、臓器が底の臭いドロドロに戻るのを前もって感じることができるように、私たちを振り回す煩わしいものが無くなったら、では精神性が上がるのか?というとそういうわけではないが、無駄な諍いが少しは減るんじゃないかと思う。私たちは、同じ喪失感、同じ疲れる仕事に、建設不可能な、筆舌に尽くしがたい、塵にまみれた戻りのない時間の中で委ねられているわけで、永遠に芽が出なくて葛藤するのもいいと思うのだが、自殺したジャズミュージシャンやら小説家やら表現者やら、全部が金がらみと言えば、ぶっちゃけそうだろうとしか言いようがない。

 

お金のために純粋な音楽を追求できなくなって自殺したピアニストがいたとして、でも彼がお金に困っていなければ音楽だけを追求できたかもしれないわけで、もちろん葛藤の中で生まれる表現というのもあるけど、シェルシみたいな、引きこもって芸術だけを追求する生活というのがあってもいいし、たまたま晩年になって発表する機会があって人に知られるようになった、とかでも全然かまわないはずで、時間は私たちの口を通して語り、骨に刻まれ、私たちは、太陽、群衆、家々、ここにサインしてください、と言ったようなうんざりする契約の一部である、作り物の世界に落ちた。

 

四つは万物の根源である。それぞれの要素は自律性を保ち、私たちはそれらを混ぜ合わせ、1つから他の要素へと受け渡す。私たちはその根源まで生き、毎晩、肉体の稼働の中で転倒する場所に戻る。私たちは服や色や身振りを超えて、単に剥き出しにされたのではなく、生きたまま皮を剥がされた彼らが目の前にいる。私たちは壁を越え、空を越え、それぞれの身体は、絶え間なく転がされ、修正されながら、自らの小川となり、ざわめきとなり、波となる。

 

我々の時間の知覚はゆがみ、燃える新聞、合唱する声、窓に押しつけられた顔、永遠に思えた幻覚が続くうち、彼は気がつくと、老け顔ですり減った他人のそばに座っていて、涙がこぼれ、唾が滴り落ち、そこからエンジンオイルの悪臭が漂うドラム缶が燃え、本と記憶を焼き尽くした。でももしこの幻覚も知覚のゆがみすらもお金があったら解決したらこういうのも無くなってしまうね。「昔の人って結局、全員お金に悩んで遠回しに色々とやってたけど、結局、お金に悩んでたんだよね」


歪んだ知覚の幽玄な布をまとったディオニュソス のような人物が、彼自身の意識の迷宮を案内した。お金に困ることはない、未来では、とデュオニュソスらしきものは言った。夢のようで地獄では?さらに夢が無くなるのでは?でもお金に困らないほうがいいでしょう、古代の顔に囲まれたベッド、肩をつかむ手、抑えきれずに涙を流す女性、時間はコイルのようにゆがみ、ねじれ、燃える新聞、ドラムのビート、窓ガラスに当たる雨粒の音、窓ガラスに万券が貼りついていたらいいなぁー、またお金の話してるぜ。

 

冥界の空の唇に琥珀が灯り、朽ち果てぬ巣の光が引いた後、スズメから名前のない鳥まで、煙は翼の宗派とは異なり、炭火を和らげ、見ることはもうひとつの拷問となり、見られるという行為に痛みを伴う償いとなった。ハブの中で殻は崩壊し、ロームと岩のダジャレのように耐え、放棄を制限していた卵は、お金の欠如へと持ち上げられると、自らの誕生を背負った。粉々に砕け散った賞賛は、その落下と矛盾を呼び起こし、大地は遠く離れたまま、永遠の旅立ちとなった。要約すればお金に困らなくなったということ。

 

短い物語、彼は最初はお金に困っていたが、色々なテクノロジーの進歩と共に労働が意味無くなって政府は対策を取らざるを得なくなって最低限のお金の心配というものは過去のものになりました、海岸線に謎めいた秘密をささやく波で彼を手招きした人物が、境界線に立ち、また忘れたから話を戻すと、だからあれだよね、凄くリッチになるという妄想をすると妄想の具現化というのでもいいかもしれないけど、より現実的なのは人類が金に困らなくなるというイメージを膨らませればそれは共同幻想のパワーみたいなものになって具現化する可能性が高くなるし、そっちのほうがリアルだね、しかし、この魅惑的な光景の中に、微妙な不穏さが漂っていた。混乱した旅の中で、彼は火の暖かさを感じた。炎は揺らめく影を投げかけ、その様子を見つめているうちに、気がつくと庭へと誘われていた。太陽は天の筆のようなもので、葉を透明に、壁を鋭くし、世界を鮮やかな色合いで染め上げ、天からお金が降って来ればいいのになって思ったりした。

 

かろうじて存在を刻みつつある海岸線の傍らで、彼は心の異質な風景の中をさまよっていた。捕らわれの身であり仲間でもある不気味な手が、彼を孤独の街へと引っ張っていった。万券の結び目が彼を縛り、かつて語り部であった彼のタイピングは、今や壁の暴力の犠牲者となっており、それは追放され、しかし兄弟のような静けさの中心に縛りつけられ、彼は目に見えない大地の石を見ることができなかったために、ここで話を戻すと、知ってる人がヤバイって思うのはとにかくまぁいろんなものが崩壊するほうがマズいから人がお金を求めたり、賞賛を求めるというのも結局の動機付けは金になるからってことだったり、でもまぁ昨今では有名になるリスクのほうが高いから、隠れたままリッチになったほうがいいっていっても金持ってるだけで目立つから、だったらやっぱり共同幻想の爆発のほうがいいなって思うんだよね、それが聖域であろうと牢獄であろうと、狼の中の彼の居場所は、彼自身の動揺のリズムによって明らかになるし、音節のひとつひとつが、かつて彼が知っていた理性に対する密かな妨害行為になっていたので、妄想の約束の地で、彼は息絶え絶えの瀬戸際で崩れ落ちながら、白さの万券をため込んだ。宙に浮いた息のない一言を求めて。

 

彼は海辺の聖域の静かなアルコーブに腰を下ろし、水晶玉ではなく、霧に覆われた海のキャンバスを見つめた彼は透視能力の訓練のために水晶玉を使っていたのだが、能力が高まるについて、力強い波がやってくると、彼は傾斜した砂の上に降り、まるで運命の天の流れを操るかのように、流れの間をすり抜けた。水晶をなぜ覗くのか?すらも金って気がしてくるぜ。つまりは水晶透視というスキルが占いというお金になるかもしれないものになるかもしれないから覗くんだったらつまんね、また金かよってなるじゃん?

 

いつもは穏やかな予感の領域である海が、今は、語られざる運命の岸辺を隠す霧に覆われ、水との交わりの本質に挑戦するような、まったく水のない場所かもしれないという考えが、確信に変わり、それは元素としての水とは違う水の感覚であった。

 

海は、目に見えない運命の風に煽られ、嵐に翻弄され、その秘密を手の届かない領域へと散らしていった。スコールは空を逆さまにし、平凡なものの破壊をほのめかす静寂と静けさを作り出した。彼は、彼の感覚をしばしば圧倒する宇宙の膨大な情報にも似た、彼を襲う不確かなものの洪水と対話を始めた、つまりは洪水が洪水であることにはお金ってイニシアチブはないだろう、ただ荒ぶるわけでっていうか荒ぶるってのも観測者の主観だからな、自然現象は自然現象だろ、降ろすという作業には多大な身体負荷がかかるが、突き刺すような冷たさが彼の腕を麻痺させ、渦の中を旋回しながら、彼を取り囲む金の本質を問うた。それは金なのか、それとも他の宇宙の霊薬なのか、彼は海から背を向けることを選び、雑木林につまずき、数歩ためらっただけで倒れた。その日は終わりに近づき、弱々しい光が残り、風景の細部が驚くほど鮮明に見えた。

 


今は真夜中だった。そしてまたうとうとしていると、犬の鳴き声の残響がひとつずつ消えていき、あたりは静寂に包まれた。お金が必要だなんて当たり前でしょ?金金煩いな、どのくらい金ネタで引っ張れるか?ってのは無駄にビールを飲む描写でどのくらい引っ張れるか?と同じことなわけで、金を逆に相対的に中心として考えると金が関わってないものなんてないだろうよ、っていうか小説一つにしても職業がどうの進路がどうのって話があったらそれはつまりは金の話だ、金なんてどうにでもなるって世の中だったらそんなの悩み事にもならんだろう、そこまでいかなくても、前にも書いたように成立しなくなる話が多くなるってことだって同じことを書き続け、椰子の葉は、謎めいた工程を経て、水や火や空気を通さなくなった。彼は羊皮紙に目をやる。最初のページには、地味な黒を背景に無垢な白い円盤が描かれている。次のページは、円盤を映し出し、今度は中央の点で飾られている。