2025-01-01から1ヶ月間の記事一覧

行方不明の象を探して。その310。

断片化とは、時間の不在としてしか理解できない時間化によってもたらされる間隔であり、分離である。断片は、断片として、それが前提とする全体性を溶解する傾向があり、それはそこから形成されるのではなく、消滅するために自らを晒し、消滅のエネルギーと…

行方不明の象を探して。その309。

部屋に入ると美雨が花瓶に花を飾っていた。花をいじりながら美雨は嬉しそうに言った。僕は黙って首を左右に振った。そもそも花言葉なんてひとつも知らなかった。美雨の鼻ニキビはあんな風にいじらなければ酷くならないのに、しょっちゅう触ってるからどんど…

行方不明の象を探して。その308。

象は我々を覚えている。テーブルの上に置かれた本の余白に、読んだことがあるかどうか、自問した。しばらく書けなくなった。倦怠感が物凄かった。彼が一人で書く理由は偽りを少なくするためだ。半分は夢の世界にいたところを眩しい光によって現実に引き戻さ…

行方不明の象を探して。その307。

「頭がおかしい。元々おかしいけどラリってる感じでもないし。アシッドな感じもしない」 僕は大の字型なりに凝然じっとしたまま、瞼まぶたをいっぱいに見開いた。そうして眼の球たまだけをグルリグルリと上下左右に廻転さしてみた。 羽と貝殻が種子袋の右側…

行方不明の象を探して。その306。

「でも一般的に男はフェラチオの際に女が精液を飲み込んでくれることを好む。それによって男は自分が女に受け入れられたことを確認することができる。それはひとつの儀式であり承認であるってここに書いてあるよ」 「どこに?」 「君の顔さ。そういう顔をし…

行方不明の象を探して。その305。

「グッドバイ」 と彼が店員の女の子に言うと、女の子は涙を浮かべながら震えた声で 「グッドバイ・トゥー。アイ・ラヴ・ミー。ナット・ユー。お金は冗談抜きでクレジットで先ほどお支払いしていただきましたから、お支払いは結構です。アンド・ソーオン」 と…

行方不明の象を探して。その304。

「ごめんなさい。さっきはつまらないことを言っちゃって。でも夢を「見れる」じゃなくて「見る」って言っていたのが印象的で、凄く見る感覚がリアルに感じられました」 「彼女ね、君のことが好きなんだってさ。凄くイケメンだって。で、僕らをカップルだと勘…

行方不明の象を探して。その303。

「なんか両想いっぽいですよね。そういうの素敵だと思います。あのイケメンさんが彼氏だなんて正直、羨ましいです。あの人、絶対女の人にモテますよ」 「両想いじゃないよ。キッスはしたけどね、僕は基本的にノンケだし、仮に僕がゲイかバイだったとしても彼…

行方不明の象を探して。その302。

地下鉄の駅まで駆けだそうとする僕に傘をさしかけてくれる人がいた。 「あ、さっきの」 「駅までどうぞ」 「ありがとう」 気が付いたら僕は見知らぬ人とひとつ傘の下に入って歩き出していた。そうすることが少しも不自然でないように感じられたのは、彼のや…

行方不明の象を探して。その301。

仮にあの一口目の体感を持続することができても、その先に何もないのは分かり切っている。そして僕は自分にふたたび訪ね始める。あの未知の状態はそもそも何であったか、いかなる論理的根拠をもたらしはしなかったが、その明白な幸福感と実在感とで他のあら…

行方不明の象を探して。その300。

「僕とセックスしたいということ?」 「というよりかは朝になってインスタント・コーヒーをすすりながら冷たいパンをわけあうといったような生活を君と送ってみたいということはあるかな」 「なんかでもそれってさ、だってそもそも君は金持ちだろう?おかし…

行方不明の象を探して。その299。

僕たちは象のところへ行く途中だった。彼がこの地へ来てから、一〇日ほど経つ。結局、彼はあの家に住み着いている。周囲の草を刈り、窓や壁を修理し、大雑把ながらも掃除し、家財道具をあちこちから持ち運んできて、以前と比べると少しはましな状態になって…