行方不明の象を探して。その269。

徹底的に彼女のすべてがその中で酔いしれてしまうまで行かせないと本当じゃない。倫理も道徳も遠慮も見栄もいらない。Rileyの曲がYou’re No Goodというフレーズのところでループし始めた。

 

「これがパフォーマンスよ。パフォーマンス」

 

音楽は壊れたCDか傷のついたレコードのように同じ部分をループさせ、後にそのループがズレ始め、特有のラリった感じの響きになってくる。

 

「ループするってことが君の言う愛情というかパフォーマンスなの?」

 

彼女は何も答えずに近寄ってズボンを降ろた後にパンツも降ろした。ギンギンになった先走り汁でヌルヌルになったペニスが露わになる。性的なことが嫌いと言っていたのにやっぱり普通のセックスをするのだなと安心したと同時に死ぬほど興奮していた。

「あなたのおちんちんが好きよ。かたちも色も大きさも」

 

「あ、そう。なら良かった」

 

何が良かったのか分からなかったが、とりあえずそんな風に返事をした。

 

彼女はギンギンに勃起しきったペニスを眠り込んだペットを扱うみたいに触った。

 

「パフォーマンスね。パフォーマンス」

 

と言ってベッドに座った。いよいよセックスかと思い彼女に近付いたらまた凄い剣幕で怒鳴られた。

 

「それは違うわよ!イマジネーション!あたしが求めているのはパフォーマンス!」

 

と半ば叫ぶかのように言って勃起したペニスをブーツで蹴った。

 

「ぐあっ!」

 

思わず声が出るほど痛かった。命中したのは竿の部分だけだったので良かった。唖然としてしまった。愕然としてばかりいられないので調理器具が無いのにも関わらずスパゲッティーを作ることにした。蹴られた亀頭が真っ赤になっている。「You’re No Good You’re No Good You’re No Good You’re No Good」Rileyの曲は完全にラリったループ状態に突入していたので、このままのほうがいいと思ったのでリピート再生にして、今回のことが済むまでずーっとこのままにしておこうと思った。

 

「痛かった?」

 

「そりゃ痛いに決まってるよ。アソコを蹴らなくてもいいじゃないか。酷いよ」

 

「イマジネーションがいけないのよ。あなたのポコチンが好きというのは本当のことよ。でもそれはパフォーマティヴ的な意味でなのよ。イマジネーションになってしまっては意味がないの。それは愛情じゃないわ」

 

別に腹が減っていたわけじゃない。それどころかちんちんの痛みで食欲なんてほとんどないどころか吐き気さえあった。でもこの時の何かの目標に向けて、とりあえず体を動かす必要があった。でもなぜスパゲッティなんだろう?そしてどうせ始まるんだろう。いつものやつが。あのロカンタンが激怒するやつが。

 

鍋に水を入れてガスの火をつけ、それが沸騰するまでにRileyを聴きながらトマトのソースを作った。Rileyは永遠にノーグッドなままだ。音楽も状況も壮絶的にラリってやがる。存在がこんな異次元に置かれるということはないんじゃないか?その原因があるのか、彼女にあるのか、どちらかはわからなかったけれど、とにかく腫れあがったポコチンを露出しながら黙って料理を続けた。

 

オリーブ・オイルを熱してにんにくを入れ、それにみじん霧にした玉ねぎを入れて炒め、玉ねぎに色が付き始めた頃に、あらかじめ刻んで水を切っておいたトマトを入れた。本当のクソみたいな工程の数々だ。何かを切ったり炒めたりするのはクソ以下の行為だと思った。そこには確かな手ごたえがあり、音があり、匂いがある。彼女のブーツの匂いはもうどうでも良くなっていた。アソコがジンジンするのと料理をしていないと気が狂いそうだったので、必死に体を動かした。

 

こうして無駄なクッキングの時間は永遠に続くかのようであった。鍋の湯が沸くと塩を入れ、スパゲッティーを一つかみ入れた。そしてタイマーを十分にセットし、流しの中の洗い物をした。相性が悪いものに大して接し過ぎると気分が悪くなってくる。流しの中の洗い物を洗いながら去年、全く不向きなことを必死にやろうとして勉強して猛烈な吐き気に襲われて吐きそうになったのを思い出した。体が「向いてないからよせ!」って言ってるみたいだったのに無理やり続けた結果、神様がいるとすれば神に救われたとでも言うしかないか。ギリギリのところで失敗せずに済んだ。

 

出来上がったスパゲッティーを前にしても、食欲はまるで湧いてこなかった。そこで彼女の性癖を確かめるために、作ったスパゲッティを彼女のほうに放り投げた。

 

「きゃあ!なにするのよ!」

 

「さっきのお返しだよ!」

 

スパゲッティを作ってる間、彼女は何をしていたか?というと、Rileyの音楽というかぶっ壊れたCDのようなループに合わせて奇妙な踊りを踊りながらジョイントを吸いまくっていた。おかげで部屋がガンジャの副流煙に包まれていた。でもRileyもモロにトリップしてたヒッピーの権化みたいなヤツだったので、案外、Rileyの聞き方としては正しいのかなとは思った。

 

スパゲッティを投げつけたことは全く後悔していなかった。もちろん皿ごとではなくてまだ熱いスパゲッティだけを掴んで投げつけた。皿ごとでは危なすぎる。スパゲッティ塗れになった彼女は服がソース塗れになっているのが気に入らない様子であったが、意外にも冷静な面持ちでこう言った。

 

「愛情分かってるじゃない。パフォーマンスってこういうことよ。スパゲッティ投げつけるのはどうかと思うけど」

 

また愕然とした。その後彼女は「パフォーマンス。パフォーマンス」と繰り返しながら喘ぎだした。完全にサイコな女だ。スパゲッティ塗れになって変な音楽聞いてパフォーマンスってどういう了見だ?

 

結果的に彼女はヴァギナをビチャビチャにさせて、一切、ヴァギナの触ることなく勝手にオーガズムを迎えていた。ちんちんが痛すぎてどうしようもなかった。

 

彼女はヘロインを包むアルミ箔を開けながら、スパゲッティ塗れになった体を拭いていた。彼女の両腕には注射胼胝が出来ていてそれが彼女が真正のジャンキーだということを表すのに十分なものであるのにも関わらず、彼女にはジャンキー特有の不健康さが一切なかった。むしろ五体満足という感じで、その辺のちょっと体の具合が良くない人に比べれば健康過ぎるぐらい健康だった。

 

「さぁあんたの番よ」

 

そう言って彼女は凄まじい形相で睨みながら皮紐で左腕をきつく絞り上げた。左拳を握りしめると太い血管が浮き出る。アルコールで2、3度擦ると彼女は濡れている針先を腫れた欠陥めがけて皮膚に沈めた。握りしめていた拳を開くとシリンダー内に黒っぽい血が逆流してくる。ほらほらひら、と言いながら彼女はスポイトを静かに押し、血と混じり合ったヘロインを一気に中に入れた。

 

「ちんちん蹴ったことは謝るわ。これがあたしの贖罪よ」

 

彼女は笑って針を抜く。皮膚が震えて針が離れた瞬間、もうヘロインは指の先まで駆け巡り、鈍い衝撃が心臓に伝わってきた。視界に白い霧のようなものがかかり彼女の顔がよく見えない。かと思ったら彼女のヴァギナにセロリを突っ込んでみたり、たとえ目の前のセロリに齧りついたとしても、結局どうにもならないということに気が付く。

 

こんな堕落した自分をどうすればいいのか?とか思いながら目の前に刺さっているセロリと自分を重ねて考えてみると、意外にも大した違いがないことに気が付く。自分はそのセロリを揺さぶってみるものの、彼女は完全にラリっていて、そのラリっている彼女とセロリが宇宙の真理を表していると妄想してみた。

 

そしてそのヴァギナに刺さったセロリと同化すると共に、そのセロリと共に空を飛んでいく。しかしそのセロリはヴァギナに刺さったままで、セロリに羽が生えて飛んでいるというよりかは、彼女が飛んでいてセロリがそれに突き刺さったままなのか、そもそも何が浮いているのか?というのが分からないまま、彼女の記憶と自分の記憶が同時にフラッシュバックしてきて、その情報量に圧倒された。

 

彼女の女性器に刺さったセロリは公園の砂場にいることに気が付いた。そのままセロリを彼女のアソコに突っ込んで、できるだけ気持ちよくさせてあげるのか、一切、そんなことをやめてしまうのか、自分は、ヴァギナに刺さるかもしれないもの全般、例えばそれは普通の電動バイブから野菜スティック全般まで、それについて考えれば刺さるかもしれないもの全般についての包括的知識が得られるような気がしていた。

 

すると自分の目の前に色々なヴァギナに刺さりそうな野菜が現れ始めた。そしてそれが行列をなして目の前を通り過ぎていく。その行列を注意深く見れば、どの野菜が一番ヴァギナに適しているのか?という究極の知識が得られそうな、そんな感じがしていた。

 

そんな気がしているときに、行列をなして歩いていた野菜たちが野菜モンスターのように野菜が擬人化されたような様相を見せたかと思うと、それが一斉に溶け出し、彼女のアソコの中に収縮していった。と同時に彼女のアソコから潮が吹きだし、あたり一面が潮吹きによる潮だらけになって、公園の砂場はいつの間にか海に変わっていた。