行方不明の象を探して。その215。

既存の諸形態が飽和状態に達しているのを救うために様々な技術を求めなくてはという気持ちで人々が頭を悩ましているのは事実である。しかしながら小説とはいかなるものたり得るかを知ろうとする以上はまずその基礎となるものが認識され判別されなくては納得しがたい。人生の持つ諸々の可能性を明らかにする物語は必ずしも劇場の瞬間を叫ばなくてはならぬわけではないが、なおそれはかかる瞬間を求める者であり、かかる瞬間なくしては物語の著者はこれらの過度な間での可能性に目を閉ざしてしまうことになろう。

 

どうにもやり切れぬ試練によってのみ作者は諸々の慣行が押し付けてくる身近な限界の数々に飽き飽きしている読者に待望の遠い幻影に達しえる方法を与え得るのだ。こういった原則を打ち出しておきたかっただけのことだ。

 

雨水の流れのような臭いを飲み込んで、気がついたら吐いていた。自分の中にまだ皮膚があるのかどうか、知りたい。人の生き方って不思議だなぁと思います。その人なりの世界があるんだなぁーって思います。外から帰ってくる小さな巣に、その夜、人間らしく生きているかい?って聞いてみようぜ。

 

一息ごとに刻んでいく僕は、あまりに不思議で可笑しくてたまりませんでした。え?そのこと?それはね、もう恥ずかしくて、考えることすらできませんでしたよ。お肉を噛む癖があるなんて、まだ恥ずかしくて言えません。でもいつか、自分の体を恥ずかしいと言えるようになりたいです。狂うことのできない惨めな苛立ちや生きづらさに、心がまどろみ、叫び、沈思するようなものである。あなた大丈夫ですか?どうして電気をつけないんだ?

 

玄関のドアにはもちろん鍵がかかっていた。試しに玄関のマットの下を探してみた。鍵がそこに見つかった。のんびりとして地方都市の住宅街で、犯罪みたいなものはほとんどない。だから人々は戸締りにあまり気を遣わない。鍵を持ち忘れた家族の為に、玄関マットの下か近くの植木鉢の下に鍵が隠してあることが多かった。

 

念のためにベルを鳴らし、しばらく待って応答がないことを確かめ、また近所の人々の目がないことを確認してから、鍵を使って中に入った。そして内側から鍵をかけた。靴を脱ぎ、それをビニール袋に入れ、背負っていたリュックに入れた

 

彼女は何足かの奇抜なスニーカーを履きまわしていたので、今日は非番のスニーカーが下駄箱に眠っているに違いない。そう考えると心臓がどきどきした。手をブルブルと震わせながら下駄箱を開けてみると、明らかに彼女のものだと分かる派手なスニーカーが数足あった。それらを順番に手に取り、手の中で撫でまわし、匂いを嗅ぎ、口づけした。これまでに体験したことのないような満足感を得ていた。感動で胸がいっぱいになり、このままでは自分がおかしくなってしまうかもしれないとすら思った。

 

常闇はもはや羽毛で汚れた夜明けのネズミのようなものではないのだろう。不機嫌で、気だるく、かすかに光るあの夜の純粋さと壮大さを失っている。果てしなく薄く、脂ぎった淀みとなり、その透明感を取り戻すことはないとしても、闇が、それゆえに、一筋の光の強さが、白濁した闇の中に吸収され、失われていく。そして、夜の一面の静寂は、次第に白濁した静寂の峻厳さに吸収され失われていく。

 

その音は沈黙することなく、深く苦しい静寂の中で、その音の輪郭をさらに明るくすることもない。その恐ろしい黄白色のI面の表面に潜んでいる音。

 

その音がフェードアウトしていくからだろうか?アドレナリンが分泌し過ぎているのか震えが止まらなくなり、心臓の鼓動が急速に高まり、まともに呼吸ができなくなった。空気が肺の中までしっかりと入っていかない。喉がひりひりと渇いて、息をするたびに痛む。鼻を突っ込むようにして彼女のスニーカーをひとつひとつ嗅いでいった。嗅いでいるというより顔をつけて鼻から息を吸い込んでいたので、酸欠状態になってフラフラになった。過呼吸のような症状が出始めて彼女のスニーカーを犯すどころじゃなくなってしまった。

 

ペニスは痛いぐらいに膨張していたのだが、この状態で彼女のスニーカーを犯したら気絶するかもしれないと真剣に思った。仮にそんな風になってしまったら家に侵入したことがバレて人生が終わってしまう。気絶しなくても長い時間侵入した家にいるということはリスク以外のなんでもない。だったら最初から侵入なんてしなければよかったとすら思い始めた。

 

その上に規則正しく歪んだ方法で自己の性欲が投影され、印刷され、着色されたものすべてが問題だった。外観はここ、視線の前に、いや、視線から引き離すかのようにある。この柱、というか木の表面、そしてもはや測定不能な大空間。貼り重ねられ、解体された大きな物体。灰の中に再び見出される線と色。過去を持たず、身体を持たず、保護もされず、粉々になったものたちの旅立ち。

 

俺は自分の目を覗き込んでいたが、小さく縮んでいた。映像はますます鈍くなり、映像全体が丸くなり、影の中の非常に遠い神経を照らし出しているように見えた。後悔した俺は家から出ようともがくことができない。嘔吐してモメる。完全に囲まれて埋まっている。ああ、自分の周りにあるものをしっかりと見なければいけない。

 

彼女の家の廊下は両側がゾラコートを吹きつけた壁で挟まれていて薄暗い。壁のスイッチをひねろうとしたもしスイッチをひねって電灯が点かなかった場合のことを知らず知らず予想し自分が心の準備をし始めていることに気づく。そんなことを考えてはいけないのだと思いながらスイッチをひねると当たり前だと言いたげに廊下の電燈が点く。塩地と思える洋風のドアを開くと中は寝室で部屋の奥に布団の整えられたベッドがふたつ並んでいる。手前には三面鏡があり鏡台には女性用化粧品の瓶が並んでいる。倒れている瓶もある。

 

寝室の電燈をつけ三面鏡を開くと男の顔が映った。興奮で頭がおかしくなった男の顔だ。こんな顔をするのかというぐらい普段の自分とは違った姿がそこに写っていた。ベッドも三面鏡もその特徴を言い表せるほど古いものではないことが分かってちょっと安心した。

 

廊下のつきあたりは食堂と台所で部分的に改装のあとがあって階層されていない部分を含めていずれも洋風だ。新しいものは食堂のテーブル・クロスであり一番古そうなものは台所中央の調理台だがそれすらさほど古いものではない。食堂の壁の真新しい皿時計は止まっていた。橋の手前で折れ、僕は川沿いの道を行く。川は両岸ともコンクリートで覆われている。

 

より正確には、暗い影に映る彼女の顔。身体はいつも、自分がいる場所の自分の部分である。そうして僕たちは二つのメロンになった。彼女が話した後、あるいは叫んだ後、彼女は黙ってしまったようだ。彼女はここにいた。

 

新しい物語が始まったことを僕は知っていた。山の緑豊かな静かな雰囲気の中で、僕と向き合うものがそこにあった、僕より先にそこを通ったのは誰だろう?窓ガラスの向こう側の木々や茂みのすぐ先に、二重の痕跡が詰まった穴がある。その穴から音がする。その音は、窓ガラスの向こうの木々や茂みの音ではなく、もっと遠くにあるものなのだ。そこで僕の動きは急降下した。七つの痕跡の急加速が見える。

 

もしかして、ここからが本番?歩いていると、笛のような音が聞こえてくる。ここにはめったに見かけない人がいるんだろうなぁ。人がいるかどうかは断言できないけど。

 

ところどころにある隙間から雑草が生えている以外、黒ずんだ灰色をしている。すぐに、階段のある場所へ着いた。岸壁にコンクリートの階段がついており、川面へと下りられるようになっている。いつもここで水汲みをしている。が、今はバケツを持っていない。あとでまた来なくてはならないだろう。そこを通って、二つの壁の間で、鈍い稲妻の形にうねりながら、狭い四角い四つ角から丘の上に皺を寄せている。下に住んでいる人たちは、さぞかし驚いたことだろう

 

階段を下りきった先にはコンクリートの通路がある。川底が他より少々高くなっているだけのところで、雨が降ると簡単に埋もれてしまう。通路は一〇メートル足らずで終わっており、そこの岸壁には、屈めば大人でも入っていけるほどの大きな穴が開いている。周辺の雨水がそこから川へ流れ込むのだ。

 

それから二階へ上がった。廊下の片側は手すり越しガラス戸で雨戸はまだ閉められていず片側には和室をわざわざ洋間に改造したらしい部屋が二つ並んでいる。襖を嵌め殺しにして濃緑色のビニールの壁紙を貼っているのだ。そのような乱暴な改造に対して自分の中に違和感があるのかないのかもよくわからないがとりあえずペニスは勃起したままで、我慢汁まみれになったパンツはびちょびちょになっていた。

 

廊下の奥のドアは半開きのままだ。室内は薄いブルーと薄いピンクを基調にしたキャンディ・トーンで乱れたベッドの裾にグリーンの柔らかそうな子熊。窓際には枯れたドライ・フラワー。壁には男性歌手らしい産毛の生えた青年のポスター。プレイヤーその他小型ステレオ・セット。CD立て。勉強机と椅子があり椅子には大柄な花模様の赤いクッション。

 

壁の穴からは波間に月が輝いているのが見える。マントで顔を隠してしゃがみこんでいる男たちがいる。時折、彼らは息を殺したような音を発している。時々吠えるような声を出す。女性もいて、額を腕につけて寝ている。腕を膝で支えて寝ている女性もいるが、彼らは衣服に隠れてまるで衣服に隠れていて、まるで壁に間隔をおいて積まれた布の山のようだ。

 

その部屋に先客がいた。どこかの台所から持ち出してきたらしい椅子に座って、ぼんやりとゲームをしている。よく日に焼けた若い男で白いTシャツを着ていて、暗緑色のズボンを履いている。鍔の広い麦わら帽子のために、顔は陰に隠れている。だが僕には彼が誰なのか、すぐに分かった。この家に住んでるから彼女の家族か親戚でしょ。分からないけど。

 

彼らの近くには半裸の子供たちがいて、その身には害虫が群がっている。害虫がうじゃうじゃいる。彼らはランプが燃やされるのを馬鹿にしたような目で見ている。何もしないで、みんな何かを待っている。

 

彼らは下ネタで家族のことを話したり、お互いに病気の治療法を勧めたりしている。何かを待っている。しかし、兄一人が、突然インスピレーションを感じて、机の前に立った。机の前に立ち自分のペニスの状態を確認する。相変わらずギンギンにそそり立ったままで、我慢汁がドクドクと出ている。