行方不明の象を探して。その213。

先回りして振り返り、彼女の手を取って握ってみる。声や声が遠ざかると、また夏か沈黙か。鳴るはずの音が、私の体から離れる。川面に広がる無数の煌めく筋が、ひとつひとつ中洲に揚がっていくのを眺めていた。彼はほとんど無言で去っていき、無言に近い音が…

行方不明の象を探して。その212。

「あたしは名声や成功を手に入れて、女たちはあたしを犯そうと必死。あたしに手を出したがる女になんて生まれてこのかた縁がなかった。さあ、何もかも手に入れたい。世界に踏み出していきたい。できる限り遠くまで。言ってること分かる?」 「うん。続けて」…

行方不明の象を探して。その211。

そういう現場があったらしいが、何も覚えていない。何も覚えていないのだ。ただ、濡れた灰色の砂浜を行き交う潮の泡のまぶしい光を延々と見つめている。何もかもが白い。すべてが白く、境界線は壊れてしまった。その日から、僕は欠かさず夢を見るようになっ…

行方不明の象を探して。その210。

煤けた街並みの幻を見ると、太陽は輝き。一片の土地は奇麗に輝いている。それは鋭く燃えていた。路面のまぶしさはグラグラとマッチングしているのだろうか?それとも、まだ夏以降の季節なのだろうか?次の霧のような日差しは爽やかで、暖かな雰囲気に包まれ…

行方不明の象を探して。その209。

「フィルムのトラブルにより上映が中断しています。 お客様にはご迷惑おかけしますが、しばらくお待ちください。別の映画にしないフィルムの交換が終了次第、上映を再開いたします。ご案内申し上げます。フィルムのトラブルにより上映が……」 君はただ別にそ…

行方不明の象を探して。その208。

物語によって沈められた現実感は、別の何かを失ってしまうのだろうか。誰もいないこの部屋に太陽が昇り、僕は自分の部屋をマイルームと呼ぶ。紡ぐ言葉のひとつひとつが、一筋の光のように揺らめいている。 デジタル的なものは一切禁止されていた。入り口でス…

行方不明の象を探して。その207。

彼女には弟がいて、ある晩、典型的なに全財産、100万ほどを盗まれてしまった。突然のことで、働く気にもなれず、ダラダラする生活が続いた。酒を飲んでは空想の世界に入り浸った。弟曰く、酒はね、現実と夢と空想の世界を曖昧にするんだよ。素面だとね、これ…

行方不明の象を探して。その206。

文学の終極をして文学で生き延びる。人が文学に生かされる。彼は自分が語る物語のせいで正気を失ったのであり、その悲劇こそが精神的、社会的な転落の原因となって彼を無用者に仕立てあげることになったのだろう。僕も死ねる。愛子のために今なら死ねる。そ…

行方不明の象を探して。その205。

近所にカーセックスする人間が集まる通称「アオカン公園」というものがある。山を登った先にあるだだっ広い駐車場に車を停めてカーセックスをするのだ。今日も結構な車が止まっている。車を停めると彼女は無言で左右の胸へと手を滑らせた。艶めかしい声が出…

行方不明の象を探して。その204。

彼女は勘のいい女だから、そういうことがわかって、ああいう素振りをしているのだろう。普通の男だったら、あんな風にいかにも高そうな高級車のボンネットに腰をかけて、艶めかしい脚をプラプラさせている女を見たら、襲いたくなるに決まっている。彼女はそ…

今の時代に小説を読むとは?

今の時代に小説を読むとは?ですけどね、書き始めてから読むようになったんでまぁぶっちゃけ小説を読むようになったのは最近ってことなんですけど今ってコンテンツが腐るほどあるじゃないですか?んでなんであえて小説?っつーと元々特に純文学なんて読者は…

行方不明の象を探して。その203。

というかそのハイキング未遂の話を思い出していたら、彼女に鼻を殴られたことなど些細なことだと思えてくるし、彼女をより愛おしく思えてくる。 首都高速に入ると彼女はガムを噛みながら何かを言おうとしていた。多分、不満か何かだろう。どんなに彼女のこと…

小説とAIについて。

芥川賞をとった九段理江「東京都同情塔」なんだけど、アンチテーゼとしてChat GPTを使ったんだなというね、読んでないんだけどね(笑)まぁね、ニュース記事とかも勘違いする人はいるだろうなとは思うんだけどね「芥川賞作品、5パーセントがChat GPTそのまま…

行方不明の象を探して。その202。

というのも、芸術的感性が豊かで、美人でスタイルが良くてファッションセンスが抜群なのは当然として、それだけではないものを偶発的な要素で喚起させるということは滅多にないことで、それは彼女と山登りというほどではないにしても、軽いハイキングコース…

行方不明の象を探して。その201。

調性音楽に耳を飼いならされた奴隷のようなリスナーが平気でこんな便所の落書きレベルのことを書いているのを見て 「世の中アホだらけだ。音楽リスナーも例外じゃないな」 と、ため息をついた。部屋の面々は、黙ってテープを聞いている。彼らは顔をしかめて…

行方不明の象を探して。その200。

「馬鹿みたい」 と彼女は言いながら、あたくしめの唾液とぶっかけのし過ぎでカピカピになったブーツをトイレットペーパーで拭いている。 「済まなかった。でも鼻を殴ることはないんじゃないか?」 と言った。鼻の骨が折れたかと思っていたが、しばらくして鼻…

新しいの出たので。

去年の11月に作っててアップしてなかったんでよろしく。 open.spotify.com

行方不明の象を探して。その199。

誰にも分からないか?と言われれば「はい、勿論です」と答える。それは自分を助ける表現として。ヤァヤァヤァとの信頼は相互的なものであると思うこともあったが、今はもちょろん、この空間で僕が話せる方法を探している最中だょ。相互的でなくてもかまわな…

AI徒然。

ウォール伝、ですけども、今回は。 YahooニュースでYoshikiがAIについて法整備がどうたらっつーのを言ってるやつがあって「やっぱまぁこういう話がミュージシャンから出てくるよな」と思ったんだけど、まぁYoshikiは著作権のことを主に言ってると思うんだけ…

行方不明の象を探して。その198。

でもそれは頭で気がついているのではなく、様々なイメージと一体化した体がそれを理解しているという体感であって、それは遊園地のアトラクションを頭で理解せず、体感することで楽しむのと同じで、アトラクションがさらなるアトラクションをアトラクトして…

行方不明の象を探して。その197。

「見えるものと見えないものの間で、それが拮抗しあって束縛するから」 「絶望的に抽象的だね」 「フフッ。そうね」 少し早めに会話を終えて散歩に出かけた。買った洋服が邪魔だったので着てきた洋服を捨てて買った洋服に着替えた。顔を捻ると年配の女性がベ…

行方不明の象を探して。その196。

ウォール伝、続きあると思ったらなかったんで象シリーズの続きで。 なぜか、秋の終わりよりも今の方が不安な気持ちになる。なのに、汗が出る、汗じゃなくて、あの温かさ、心が絞り出されるような感じ。苦しいのでもなく、悲しいのでもなく、血を搾り取られて…

久々のウォール伝。その4。

あけおめ!ってことで続きです。 まぁ今言われているChat GPT関連の本とかを読んでてもよく出てくる使いこなせる人が今後重要になるってのもすんげー一時的な話よね。プロンプターが重要になるっつってもプロンプト自体がアルゴリズム的っつーか数値化できる…

久々のウォール伝。その3。

はい、続きです。 あとまぁまたベケットだけど(笑)ベケットの話を映像化したらつまんないわけですよ。あれは文字だから面白いんであってね、そこなんだよね。やっぱ。文字の芸術。文字だから面白い!というものだよね。だからまぁ映像化すれば原作の80パー…

久々のウォール伝。その2。

続きねっていうか思ったほど続きなかったかもな。いや、そのもうあれだよ、クソ仕事がAIのおかげでなくなるやったー!っていう感じにしておきましょうね。AIで置き換わる仕事の一覧表とかエゲつないじゃん?それは無くなるというより解放されるって考えた方…

久々のウォール伝。

いやー年末だねーってことでブログ的なことを書こうと思うんだけど、あれだね、ブログって自分が何をやっていたのか?ってことのメモとかになったりするから結構良いんだけど象シリーズしかアップしてなかったから何をやってたかなぁー?とかって思ったりし…

行方不明の象を探して。その195。

「だからといってボワーンから解放されるわけではないんだけどね」 「だからまぁ終わるまでそれは無限なんじゃないかしら。終わってもそれは続くような気がするけど」 「色々と書いてて思うんだ。いや、何も書けていないんだけどさ、創造ってそういうことな…

行方不明の象を探して。その194。

「前にどこかでお会いしたことがありましたか?」 それは可愛らしい色白の少年だった。中性的な顔つきで、どこか儚さを感じるような哀愁を帯びた美しさがあった。会ったことはないとすぐ答えた。その少年の存在感が考える間も与えないような感じだった。彼は…

行方不明の象を探して。その193。

「まだ出たいって思ってるんでしょ」 と優菜は言った。 「母ちゃんが帰ってきたら、母ちゃん怒るぞ」 憔悴していながらも、優菜へのリベンジが母によってもたらされることを確信していた。 「こんな長い時間、クローゼットに閉じ込めて何が楽しいの?」 と僕…

行方不明の象を探して。その192。

「どうです?、これで一つ奇抜なカクテルでも作ってみたら?僕はさっきちょっとそんな文句をここで口ずさんでみたんです。なぜって、もうこれでたっぷり一時間経ってるんですからね。そうたっぷり一時間です。僕は僕なりに自分に課せられた仕事を早くこなし…