2023-01-01から1年間の記事一覧

行方不明の象を探して。その139。

シャワーを出て仕事着を身につけるとスマホが鳴った。 「はい」 「あたし」 「ああ、きみか。今ちょっと忙しいんだけど」 「じゃあそっちに行っていい」 かごめかごめ。かごの中の鳥はいついつ出やる。夜明けの晩に鶴と亀とすべった。うしろのしょうめんだあ…

行方不明の象を探して。その138。

知覚を遮断したら身体が浮き始めるのはエーテル体の証明だ。全ては脳が作り出しているかって?そんなに脳は万能じゃないさ。どうやって浮かんでいる自分の目線を知覚する?というか記憶からそれを取り出してきて、あたかも浮いたかのように知覚する?いや、…

行方不明の象を探して。その137。

確信めいたものがあるわけではないが、定式化された物理現象の中で発揮する人間のポテンシャルというのは限られている。そもそも物理空間や物理現象の整合性とマッチしたのが脳なわけで、ただ脳はそれ以外の情報も整合性を保ったまま、意味の崩壊という危険…

行方不明の象を探して。その136。

観測の過程として現象は現れるので、現実に見えるものや認識的に納得がいくようなもの以外のものの振る舞いが様々な現象を規定しているといっても過言ではない。というかそう考える方が自然なのではないか?なぜ人は「見えるもの」や「信じることに値するも…

行方不明の象を探して。その135。

30分かけて彼女のアパートまで歩いた。 ちくちくする灌木の枝に頭をもたせかけたまま、息を吸い込んでみる。夜の植物の匂いがする。彼女の声を聞いた途端、僕は暗い淵に引きずり込まれそうな虚脱感を覚えた。さっきまで見ていた夢の情景が甦る。海辺で不意の…

行方不明の象を探して。その134。

彼女は黙っていた。そう彼女が僕に話すとき彼女は僕と同じようにして僕に話すのではない。彼女が僕に訴える時、いかなる場所からも彼女に離さない何かに彼女は答えており、その際にはある区切りによって、つまり僕と彼女の二重性も一体性も形成しないような…

行方不明の象を探して。その133。

僕たちの目から見て実質があると思われるところではすべてが付帯的状態に過ぎないのであり、僕らがもっとも堅固だと思っている者はもっとも空虚なものだし空虚なものはすべて空虚だ。 「うーん、この橋をどう稼働させればいいのか・・・」 「困ったもんです…

行方不明の象を探して。その132。

「あんたは本当にそう信じてる?」 「ああ」 象はしばらく黙り込んでビール・グラスをじっと眺めていた。 「嘘だと言ってくれないか」 象は真剣にそういった。 象は車で象を家まで送り届けてから一人でバーに立ち寄った。 「話せたかい?」 「話せたよ」 「…

行方不明の象を探して。その131。

「女の子はどうしたんだ?」 思い切ってそう訊ねてみた。象は手の甲で口についた泡を拭い考え込むように天井を眺めた。 「はっきり言ってね、そのことについちゃ君には何も言わないつもりだったんだ。バカバカしいことだからね」 「でも一度は相談しようとし…

行方不明の象を探して。その130。

チャネリングは悪くない。いよいよ本もつまらないとか3次元情報に飽きてきたらもう別次元だ。それを5次元とかって言ったりするけどそれが実際に5次元かどうかは分からない。それは数学的に5次元なのか別次元のことを比喩的に5次元と言っているのか、もしくは…

行方不明の象を探して。その129。

そう。僕は思い出すのだが言葉を語ることとはそもそもあらゆるビジョンと決別することであり、もはや明るさともそれを唯一の尺度としてかかわるのをやめることである。そしてまた言葉の中には日の光の所業ではないような現前、それでも明らかに表示するよう…

行方不明の象を探して。その128。

ユングによると、一般的に偶然の一致と呼ばれているものの中で意味のあるもの、言い換えれば、意味のある偶然、必然的な偶然、そういったものを引き起こすのがシンクロニシティなのだという。 象は例をいろいろと話し出した。小説に書いた話とまったく同じ事…

行方不明の象を探して。その127。

そして彼は、あの世での絶対的な意識を想像する。彼は、僕たちが皆そうであるように、自分が死んでいることをどうやって知ることができるのか不思議に思っている。僕たちは流体の右端に気を取られていたのだ。なぜ左端ではないのか?それは驚かせるための絶…

行方不明の象を探して。その126。

「さて、どこかに行きますか?」 「動物園を襲撃しに行こう」 「いいね」 と言った。内容的にはキリンさんと一緒に行く時の話と重複したり、大体園長が同じような態度なので省略する。またレコードを渡されたけど面倒なので省略する。問題は一週間ばかり象の…

行方不明の象を探して。その125。

「象と俺のみ」という意味での我々は店の奥にある薄暗いコーナーでマリファナを吸いながら時間を潰した。 「いい感じにキマったな」 「ああ。俺は上物しか吸わないからな」 我々はカウンターに戻りビールとジム・ビームを飲んだ。すでにラリっていたので殆ど…

行方不明の象を探して。その124。

武術を教わっている師父に 「また時間がズレてしまいました。稽古、お休みします」 とラインをする度に嫌な気持ちになる。まるで武術と虚構の世界を秤にかけているようで、自分は虚構の世界に没入する道を選ぶから武術は二の次だと言わんばかりのプライオリ…

呪術廻戦じゃないんだから。

躁鬱さんのリクエストにもあったようにたまに近状を書くことにするわ。っつーか書けないことが増えてきたんだよね。というのは例の見えない世界にコミット中なのと、それと同時に三次元世界に完全に見切りをつけたというか、どんどん興味が無くなってきて、…

行方不明の象を探して。その123。

僕は今でも、ヒー君のことを。見捨てたのを非常に後悔している。僕は自分からここに来たのではない。前回も来なかったし、その翌日も翌々日も眠ったわけではない。もっと長い間眠っていたのだ、と思うようにしていても、それでも、僕はヒー君のことを思って…

行方不明の象を探して。その122。

話をエレクトロに戻そう。エレクトロはつまりはTR-808を使ったお決まりのビートしか選択肢がないわけだから、結果的にどの曲も似たり寄ったりになって、ジャンル的には短命に終わった。でも俺の中でエレクトロのマイブームが来ている。Rawなものを俺は好むの…

行方不明の象を探して。その121。

「だったらどうなんだ?」と僕は答えた。 「どうってことありゃしませんよ」と通りすがりは答えた。 通りすがっているのに通っていない男だ。こいつは。俺の何を知っているのか、でも妙に的を得ている。そもそも我が国日本では通りすがりと話すということが…

行方不明の象を探して。その120。

「何が気に入らないの!」と女性が大声で言った。金玉を丸々と、むしろスポンっていう感じで口に含んだ後に、俺の股の間でそう叫んだのがこの女。気に入らないというのではなくて、目というよりも目の上の骨に慢性的な鈍痛があって、単純な眼精疲労だとして…

行方不明の象を探して。その119。

エレベーターに乗っているときに乗り合わせた女子高生が 「さっきなんかキモい禿がいたんだけど」 という話をしていて、多分、学生の頃だったのだろう。そのキモい禿は俺の当時の友人だった。でも禿げているわけではなくて坊主にしているだけだった。その友…

行方不明の象を探して。その118。

それは空き部屋が気に入ってちょっと安心しながら寝入ったときのことである。隣の部屋から 「うう・・・」 という呻き声のようなものが聞こえたので、隣の部屋をノックしてみると重病人らしい年齢不詳の男性が寝ていて、ちょうどその時に超ボインのTちゃんも…

行方不明の象を探して。その117。

掃除をすると運気が上がるとか掃除は心の掃除にもなるとかって言うけどヴァイノーのお手入れはどうなんだ?下手な掃除より運気とか自分が磨かれそうな気がしてこないか?ヴァイノーが凄いのはグルーヴにグルーヴそのものが刻まれていることだ。それを針がピ…

行方不明の象を探して。その116。

ヴァイノーはあれだ、前に書いたかもしれないけど日本の80年代のシティポップなんかが海外で人気で海外のバイヤーが大量に買っていって海外でボロい値段で売っていても何しろ海外は賃金が高いから高いレコードも売れるんだろうな。中古のレコードの値段が高…

行方不明の象を探して。その115。

「本当にこのままでいいのかしら?」 「そんなのわかるわけないだろう」 「でもそれじゃまるで放り出されている感じで、基盤が無さすぎるって感じられるのはどこか矛盾しているからなのかしら?」 「あんまり言ってることが分からないけど、多分、なんとなく…

行方不明の象を探して。その114。

翼はすっかり楽しくなってまた酒を飲むふりをした。酔っ払いの中で一人だけウーロン茶を飲んでいても精神的に酔ってきて顔が赤くなったりするらしくて、それ描写してみ?って言われたらさ、マジでそうなのか?って、「そう言われているらしい」ということを…

行方不明の象を探して。その113。

新しいの出たんでよろしく。 open.spotify.com 「これええお酒やわーめっちゃええやん」 「おいしいやーん。おいしいゆーても香りやけどな。主に」 「ほんまや。これもおいしいでえ。香りやけどな」 「すっごいなぁ雅くん、こんな技があったんや。天才やな」…

行方不明の象を探して。その112。

久々に酔っぱらってしまった。夜はすっかり明けていた。そのホテルのシャッターは中は半ばあげられていた。そのホテルに入ると思うであろう?関係ないんだよ。ただあげられていたってだけ。そんなことしかないだろう。人生って。「あ、シャッターあがってる…

行方不明の象を探して。その111。

ここの薬剤師は知らない人間が来るとパクられると思っているし銃を片時も離さないので間違えって部屋に入ったら射殺されることになる。とにかく彼は容赦ない。腕のよい薬剤師で薬剤師というよりシェフという感じで、どんなドラッグでも調合できる。先ほどキ…